SaaS業界において広く普及してきている「カスタマーサクセス」は、収益拡大の重要なカギを握る施策です。特にサブスクリプション型ビジネスを成功させるためには必要不可欠な取り組みであるため、カスタマーサクセスは多くのSaaS企業で取り入れられています。
本記事ではSaaSビジネスにおいてカスタマーサクセスが重要な理由や役割、導入成功に導くポイントなどを解説しています。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは、商品・サービスを購入する顧客へ能動的に関わり続け「顧客の成功体験」を実現させる取り組みのことです。
従来から顧客へのカスタマーサポートやアフターフォローは多くの企業が取り入れていたものの、これらはあくまで顧客側からのアクションを待つ「受動的」な支援でした。
カスタマーサクセスは顧客から求められることを待つのではなく、顧客が期待する成果を実現するために先回りして支援を行います。オンボーディングやアップセル・クロスセルなど、サービスの利用段階に応じたさまざまなアクションを行い、顧客の成功をサポートします。
SaaSでカスタマーサクセスが重要な理由
SaaSビジネスにおいてカスタマーサクセスはなぜ重要視されているのでしょうか。以下で理由を2つ紹介します。
理由1 LTV最大化を図るため
LTV(顧客生涯価値)は、顧客が契約期間にもたらす利益の合計値です。SaaSの多くはサブスクリプション型のビジネスモデルで運用されているため、顧客の継続利用を促しLTVを最大化させることが、ビジネス成功のカギとなります。
類似したサービスが世に溢れている現在において、利用価値を感じられないサービスはすぐに解約されてしまいます。継続利用を促すためには、顧客の課題を把握し適切なサポートを提供することはもちろん、顧客の成功へ導くための継続的な価値提供が欠かせません。
このような理由から、SaaSビジネスにおけるLTV最大化の手段としてカスタマーサクセス活動の重要性が高まっているのです。
理由2 他社との差別化を図るため
現在のSaaS市場は類似したサービスが飽和状態となり、サービス自体の価値のみで他社との差別化を図ることは困難になっています。
数ある競合のなかから選ばれるサービスを実現するためには「顧客にとってのベネフィットがわかりやすいこと」が大切です。「サービスを利用し続けることで、自分自身が得をする」と顧客が感じられなければ、簡単に他社サービスに乗り換えられてしまいます。
具体的な機能を説明したり、継続的にコミュニケーションを取ったりするカスタマーサクセス活動は、レッドオーシャンで生き残るために必要不可欠な施策なのです。
カスタマーサクセスの役割・業務内容
カスタマーサクセスの主な役割・業務内容は以下のとおりです。
1. オンボーディング(導入支援)
2. 活用支援
3. フィードバックの収集・分析
4. 解約の抑制・契約更新フォロー
5. アップセル・クロスセル提案
顧客のサービス利用段階に沿って説明します。
1 オンボーディング(導入支援)
カスタマーサクセス活動で、顧客に対して行う最初の支援がオンボーディングです。
オンボーディングは、顧客がサービスを自力で使いこなすことができるよう教育・レクチャーをすることを指します。顧客の離脱を招く最大の要因は「導入でつまずくこと」にあるため、カスタマーサクセス活動が特に重要な意味を持つフェーズです。
オンボーディングの具体的な業務内容は、以下のようなものが挙げられます。
・基本操作の習得を目的としたサポート
・教育用コンテンツやチュートリアルなどの提供
オンボーディングを適切に行うことで、顧客ロイヤルティを高める効果も期待できます。
2 活用支援
オンボーディングが完了し、顧客がサービスを使い始めたら「顧客の成功」を実現するための活用支援を行います。
活用支援の具体例は以下のとおりです。
・ステップメールの配信
・活用事例や機能アップデートの共有
・トラブルシューティング用コンテンツの配信
サービスの利用を定着させるために、より高度なサポートが必要となるフェーズです。
3 フィードバックの収集・分析
顧客一人ひとりに適切なカスタマーサクセス活動を行うためには、定期的な顧客フィードバックの収集・分析が欠かせません。
サービスのログイン回数や活用頻度などの定量的なデータに加え、要望や不満などの定性的なデータをあわせて分析する必要があります。
4 解約の抑制・契約更新フォロー
フィードバック分析により判明した「活用度の低い顧客」や「不満を抱えている顧客」に対し、優先的に解約抑制のアプローチを行います。個々の顧客にパーソナライズされたアプローチを行うことにより、特別感を醸成することもひとつの方法です。
また、普段「なんとなく」継続していた顧客は、契約更新のタイミングで解約を検討することがよくあります。そのため、契約更新前には顧客の活用状況をリサーチし、適切な継続へのアプローチを行うことが大切です。
5 アップセル・クロスセルの提案
顧客のサービス利用が定着したら、上位プランや関連サービスの契約を促すアップセル・クロスセルの提案を行います。
具体的な施策は以下のとおりです。
・配信コンテンツに新プランの紹介を織り交ぜる
・活動支援や契約更新のアプローチ時に提案する
商談中に提案するケースも多いため、営業部門と連携しながら対応することが望ましいです。
カスタマーサクセスと営業の違い
カスタマーサクセスと営業の最も大きな違いは、提供するサポートの姿勢です。
従来の「売り切り型」プロダクトの営業は、新規顧客の獲得に重きを置いていました。発生する売上のほとんどが、プロダクトの「購買時」に発生するからです。そのため既存顧客との関係性は希薄になりがちで、寄せられた要望や不満への対応は受動的に行うことが一般的でした。
しかし、サブスクリプション型ビジネスは、顧客との長期的な関係継続を前提としているため、売上拡大には顧客満足度の維持が欠かせません。サブスクリプション商材の収益モデルはコストの回収が長期に及ぶため、能動的に関わりを持ち続けるカスタマーサクセスの重要性が増したのです。
SaaSビジネスにおいては、顧客の離脱を防ぐうえで営業の考え方だけではなく、カスタマーサクセス活動が必要不可欠になります。
カスタマーサクセスを成功させるためのポイント
カスタマーサクセスを成功させるために押さえておきたい3つのポイントは以下のとおりです。
1. それぞれの顧客に最適な対応を行う
2. ヘルススコアを設計する
3. 営業部門と連携を密にする
SaaSビジネス発展に必要不可欠な考え方のため、詳細を解説します。
ポイント1 それぞれの顧客に最適な対応を行う
カスタマーサクセスでは、それぞれの顧客にあわせた対応を行うことが大切です。
すべての顧客に有人対応を設けることは理想的ですが、ユーザー数が多い商材においては現実的ではありません。そのためLTVを軸として顧客を分類し、それぞれの層に最適な支援を提供することでコストパフォーマンスを最大化させる必要があります。
顧客の分類は、以下のように3階層にわけて考えることが一般的です。
ハイタッチ層 | LTVが高い顧客(大企業など) |
ロータッチ層 | LTVが中間層の顧客(中堅企業など) |
テックタッチ層 | LTVが低い顧客(個人事業主など) |
それぞれの層を詳しく解説します。
ハイタッチ
ハイタッチ層は、自社の収益に大きな影響を及ぼす大口顧客を指します。大企業や有名企業などが対象で、最も手厚いサポートを提供すべき対象です。
専任担当者がマンツーマンでフォローを提供したり、定例MTGを開催したりするなど個々にカスタマイズした支援を行います。相応のコストをかけ、きめ細やかなサポートを行うことで、顧客エンゲージメントを高めます。
ロータッチ
ロータッチ層はLTVにおいて中規模の顧客を指し、ハイタッチと比較して効率を重視した対応を行います。
個別ではなく1対多数の集団的な対応を行うため、セミナーやワークショップなどの開催がメインのアプローチになります。メールやWebコンテンツも活用しながら、人とテクノロジーを融合させた効率的な対応が求められる層です。
テックタッチ
テックタッチ層は単価や収益が高くない顧客を指し、テクノロジーを活用した画一的なサポートを提供します。
ウェビナーやチュートリアル、チャットボットによる自動対応など、人の手を介さない支援を行うことが特徴です。1顧客あたりの価値は大きくないものの、最も数が多い層であるため、テックタッチ層の解約率を下げることがLTV最大化の秘訣となります。
その他(コミュニティタッチ)
上記の3階層と関連した概念として、コミュニティを通じて支援を提供する「コミュニティタッチ」があります。
ユーザーコミュニティやオンラインコミュニティを活用し、ユーザー同士のつながりを強化する手法をとることが一般的です。コミュニティタッチは顧客エンゲージメントを高めることができるため、顧客のLTVにかかわらず、すべての層に有効な取り組みとなります。
カスタマーサクセスの人的リソースを節約することにもつながるため、積極的に取り入れることでビジネスの成功に貢献します。
ポイント2 ヘルススコアを設計する
ヘルススコアとは、サービスの活用頻度やログイン回数などをもとに「顧客が今後もサービスを継続してくれるかどうか」を算出したものです。ヘルススコアが低い顧客は解約の危険性があるため、優先的にフォローが必要な対象となります。
ヘルススコアの計算式には決まった形式はないため、自社で集計した数値をもとに独自の計算式を作ります。
数値を算出する際の具体例は以下のとおりです。
・1カ月のログイン回数:0回は0点、1回~10回は10点、10回~20回は20点、20回~は30点
ヘルススコアを算出することで、解約抑止に加えアップセル・クロスセル提案にも生かすことができます。
ポイント3 営業部門と連携を密にする
カスタマーサクセスを成功に導くためには、営業部門との連携が必要不可欠です。
営業部門は新規顧客、カスタマーサクセスは既存顧客へのアプローチを得意としているため、お互いの考え方を共有することでより強固な顧客対応が可能になります。
営業とカスタマーサクセスの連携が強化されることで、商談時から活用期、拡大期に至るまで一気通貫で対応が可能となり、LTV最大化に大きく貢献します。
カスタマーサクセスの成功事例
以下ではカスタマーサクセスをビジネスに取り入れた事例を2社分紹介します。
Adobe|顧客のパートナー企業として共に歩むCS本部
デジタルマーケティング領域をカバーするAdobeのクラウドサービス「Adobe Experience Cloud」の顧客サポートを担うのが、社内のカスタマーサクセス本部です。
顧客の成功を定義する具体的なKPIを設定し、ロードマップを描くなど「視座の高い」サポートを行い、顧客を成功へと導いています。
扱う製品が多く、それぞれが多機能であるため使いこなすハードルが高い
能動的な支援を行う「プレミアサポート」を提供した
技術面・ビジネス面など多方面から顧客の成功実現をサポート
freee|顧客に本質的な価値を提供するカスタマーサクセス
クラウド会計ソフトを提供するfreeeは、サービスリリース当初から継続してカスタマーサクセスに取り組んでいます。事業部ごとに異なるKPIを設定し、適切なアクションプランを策定していることが特徴です。
カスタマーサポートに寄せられる「顧客の声」を適切に反映できるよう、定期的にその内容を確認する仕組みを整えています。
クラウドサービスのリリース当時から、営業担当がごく自然にカスタマーサクセスを実践していた
顧客企業の従業員数に応じて3つのカスタマーサクセス事業部を配置し、それぞれに最適なアプローチを実施した
KPIを活用した効率化と担当メンバーの特性を生かしたサポートを両立できた
まとめ
SaaS企業において「カスタマーサクセス活動=サービス品質」といっても過言ではありません。カスタマーサクセスの本質である「顧客の成功」を実現することが、自社の収益拡大に直結します。
自社のSaaSビジネスにカスタマーサクセスの概念を導入し、顧客に求められるサービスの提供を実現しましょう。