サイレントカスタマーとは、商品やサービスに不満を感じても、その不満を企業に伝えないお客様のことです。
苦情も問い合わせもないため、企業側からは満足しているように見えます。しかし実際には、その多くが何も言わないまま利用をやめていきます。企業が苦情として受け取れるのは、お客様が感じた不満のごく一部にすぎません。
サイレントカスタマーとは?
サイレントカスタマー(silent customer)は、直訳すると「沈黙したお客様」です。不満を口にしないお客様は2通りに分かれます。不満を理由に黙って利用をやめる方と、不満を抱えたまま利用を続けている方です。サイレントカスタマーは、この両方を含む呼び方です。
どちらも、問い合わせの記録には現れません。企業がその存在を数字で確認できるのは、解約や購入の途絶えが起きたあとです。
お客様が不満を伝えない理由
理由は大きく2つあります。
1つ目は、伝えても変わらないというあきらめです。過去に苦情を伝えて望む対応を得られなかった経験があると、お客様は「言っても無駄だ」と判断するようになります。米国の調査会社TARP社を創業し、ホワイトハウスの依頼で消費者苦情の実態調査を主導したジョン・グッドマン氏は、お客様が苦情を言わない最大の理由を「より良い対応を得られると信じていないから」だと指摘し、この状態をtrained hopelessness(学習されたあきらめ)と名付けています(出典:John Goodman「No News Is NOT Good News: Beware of Customers Who Don’t Complain」2015年)。
2つ目は、伝える手間が結果に見合わないことです。不満を伝えるには、連絡先を探し、つながるまで待ち、状況を最初から説明しなければなりません。他社のサービスにすぐ切り替えられるなら、わざわざこの手間をかける理由がありません。だからこそお客様は、企業に何も言わず、次のサービスを選びます。

苦情として企業に伝わる不満はごく一部
先ほどの記事でグッドマン氏は、不満が苦情として企業に伝わる割合を報告しています。問題の深刻さによって割合は変わりますが、どの場合も大多数のお客様は苦情を伝えません。
| 不満の種類 | 苦情として企業に伝わる割合 |
|---|---|
| 深刻な問題 | 25%以下(店頭や電話窓口の担当者への苦情) |
| 軽微だが不快な問題 | 5%未満(法人向けの取引でも同様) |
| 経営層に伝わる深刻な問題 | 同種の不満4〜50件につき、苦情1件 |
深刻な問題でも、4人に3人以上は何も言いません。そのため、問い合わせ窓口の件数だけを見ていると、お客様の不満の全体量を見誤ります。苦情が少ないことは、お客様が満足している証拠にはならないのです。
クレーマー・サイレントクレーマーとの違い
サイレントクレーマーは、サイレントカスタマーとほぼ同じ意味で使われている言葉です。両者に確立した使い分けはありません。意味がはっきり異なるのは、不満を企業に伝えるお客様、いわゆるクレーマーとの間です。
サイレントクレーマーという呼び方は、苦情(クレーム)を口にしないお客様に焦点を当てた言葉です。媒体によっては、企業には伝えないものの、SNSや口コミサイトで不満を発信するお客様を指して使われることもあります。どちらの用法でも、指している対象はサイレントカスタマーと重なります。
これに対してクレーマーは、一般に、企業へ苦情を申し立てる人を指して使われます。理不尽な要求を繰り返す人という否定的な文脈で使われることも多い言葉です。しかし企業の立場で見ると、不満を直接伝えてくれるお客様は貴重な存在です。何が問題なのかを教えてくれるため、企業は謝罪や改善で応えられます。サイレントカスタマーは、この対応の機会を企業に与えません。

3つの呼び方の違いは、不満を企業に伝えるかどうかの一点に集約されます。
| 呼び方 | 不満を企業に伝えるか | 企業からの見え方 |
|---|---|---|
| クレーマー | 伝える | 認識でき、対応の機会がある |
| サイレントクレーマー | 伝えない(SNSや口コミで発信する場合がある) | 認識できない |
| サイレントカスタマー | 伝えない | 認識できない |
本記事では、呼び方を「サイレントカスタマー」に統一します。
サイレントカスタマーを放置するとどうなるか
放置のリスクは3つあります。お客様が黙って離れること、不満が企業の見えない場所で共有されること、そして改善に必要な情報が集まらないことです。3つとも、お客様の不満を受け取る手段を増やすことで小さくできます。

1.黙って離れたお客様は戻らない
グッドマンの法則の提唱元である顧客ロイヤルティ協会は、不満を持ちながら苦情を申し立てなかったお客様の再購入率を9%と公開しています。残りの91%は戻りません。同じデータで、苦情を申し立てて迅速に解決されたお客様の再購入率は82%です(出典:顧客ロイヤルティ協会「グッドマンの法則」)。損失を生むのは不満そのものよりも、不満を言ってもらえないことだと分かります。
日本にも同じ構造があります。調査会社の日経リサーチ社が実施した「生活者痛点基本調査」では、商品やサービスに不便や期待外れを感じたお客様のうち、企業に申し出たのは全15業種平均で27.5%でした(出典:日経リサーチ「生活者痛点基本調査」2020年)。
7割以上のお客様は、不満を感じても企業には何も言いません。同じ調査では、不満を申し出て対応に満足したお客様の利用継続意向が最も高い、という結果も出ています。不満を伝えてもらい、対応できれば、お客様は残ってくれます。
2.不満は企業の見えない場所で共有される
企業に伝えられなかった不満は、消えるのではありません。家族や知人との会話、SNS、口コミサイトで共有されます。先ほどの顧客ロイヤルティ協会のデータでは、好意的な口コミが4〜5人に伝わるのに対し、非好意的な口コミは9〜10人に伝わります。20人以上に伝える人も12.3%いました。この統計は1980年頃のものです。現在はSNSや口コミサイトがあるため、1件の投稿が面識のない何千人にも表示され、削除されない限り残り続けます。商品名で検索した見込み客の目にも入ります。
不満を企業が直接受け取れていれば、外で共有される前に対応できたはずです。窓口に苦情が来ない状態は、不満が存在しない状態と同じではありません。
3.改善に必要な情報が集まらない
苦情は、製品やサービスのどこに問題があるかを教えてくれる情報です。サイレントカスタマーが多い企業には、この情報が入りません。問題点は誰にも指摘されないまま残り、同じ不満を感じた別のお客様がまた黙って離れていきます。経営層に伝わる深刻な苦情1件の裏には同種の不満が4〜50件ある、というグッドマン氏の推計を思い出してください。1件の苦情に向き合うことは、その裏にいる数十人の不満に向き合うことでもあります。
だからこそ、不満を伝えてもらう手段を増やすことが対策の第一歩です。問い合わせフォームの入力項目を減らす、FAQサイトで自己解決の受け皿を用意する、チャットでその場で質問できるようにする。どれも、お客様が不満を伝えるまでの手間を減らす方法です。弊社が開発するヘルプドッグも、フォーム作成・FAQサイト・ライブチャットを一つのシステムで提供し、お客様が疑問や不満をその場で伝えられる接点を増やせます。
まとめ
私の支援先にも、「問い合わせが少ないから、うまくいっている」と考えていた企業がありました。あるお客様にこちらから連絡しても、「何も問題ありません」と返信されるだけです。ところが解約後にデータを確認すると、そのお客様は解約の3ヶ月前から、「料金表」「退会の方法」といった言葉をFAQサイトで急激に検索していたことが分かりました。
言葉にしなくても、お客様の中には何らかの思いや不満があります。そしてそれは、検索や画面の操作といった、目に見える行動に現れています。「何も問題ありません」という返信と、実際の行動は別物でした。
サイレントカスタマーの存在に気づくのは、非常に難しい作業です。だからこそ、受け身で問い合わせを待つだけにせず、こちらからの能動的なコミュニケーションを諦めずに続けてください。あわせて、FAQサイトの検索ログやチャットの履歴など、複数のサポートチャネルに残るお客様の行動から、いま何を考えているのかを類推することも欠かせません。それを顧客ごとのヘルススコア(お客様の健康状態を表す指標)として把握できれば、解約の兆しに、お客様が離れる前に気づけます。
※「グッドマンの法則」は顧客ロイヤルティ協会の登録商標です。