職場での労働災害は、労働者の生活を脅かすだけでなく、企業の信頼度を低下させ、業務に支障をきたす恐れがあります。職場の安全衛生を整備し、労働災害を防ぐことは企業の責任です。
しかし、近年、第三次産業における労働災害が増加傾向にあります。そのため、労働災害やヒヤリハットを減少させるためには、「危険の見える化」が有効です。
今回は、小売業・飲食業・社会福祉施設における「危険の見える化」について、厚生労働省が発表したマニュアルを基にご説明します。
「職場の危険の見える化」のすすめ
近年、小売業や飲食業、社会福祉施設などの第三次産業における労働災害が増加傾向にあります。サービス業に従事する労働者が、業務中にケガを負い、治療を受けたり休業を余儀なくされたりするケースが増えています。
安全な職場づくりの重要性
安全な職場づくりは、労働者を雇用する事業主の義務であり、企業は従業員が労働災害に遭わないような職場環境を整備しなければなりません。その労働災害防止対策のひとつとして有効なのが、「職場の危険の見える化」です。
職場の危険の見える化とは
職場の危険の見える化とは、職場に潜む危険を視覚的に把握するための取り組みです。これは労働災害防止対策のひとつであり、各職場で発生した労働災害を踏まえ、緊急性の高い災害事例やヒヤリハット事例を、写真やイラストで視覚的に示し、従業員に周知させることで、注意を促すことを目的としています。
厚生労働省も推奨する「職場の危険の見える化」は、第三次産業の安全性を高めるために必須の取り組みとして、広がりを見せています。
小売・飲食業で「職場の危険の見える化」を導入する際のポイント
厚生労働省の資料では、小売・飲食業における「職場の危険の見える化」推進について、以下のような6つのポイントを挙げています。
「職場の危険の見える化」6つのポイント
①「本社・本部」が、各店舗の危険の見える化を、企業全体として取り組むこと。また、本社が、各店舗で発生した過去の労働災害発生状況や災害事例、更にはヒヤリハット事例を把握し、「職場の危険の見える化」すべき緊急性の高い対象を決めること。②「本社・本部」が、「見える化」したモデルのひな形を作成し、各店舗に周知すること。
③「本社・本部」が、作業手順マニュアルを作成する場合は、写真やイラストを活用して、作業手順と安全衛生が一体となった「危険の見える化」した作業手順マニュアルを作成し、それを各店舗に周知すること。
④店舗のハザードマップを作成する場合は、「本社・本部」が、モデル的なハザードマップを作成し、各店舗に周知すること。
⑤動画を作成する場合は、「本社・本部」が、代表的な危険個所の災害防止の動画を作成し、店舗に周知すること。
⑥本社・本部(又はエリア担当)が、定期的に各店舗を巡回し、指導すること。
(厚生労働省「職場の危険の見える化実践マニュアル」より)
順に詳しく見ていきましょう。
①「本社・本部」が、各店舗の危険の見える化を、企業全体として取り組むこと。また、本社が、各店舗で発生した過去の労働災害発生状況や災害事例、更にはヒヤリハット事例を把握し、「職場の危険の見える化」すべき緊急性の高い対象を決めること。
多店舗を展開する小売店や飲食店においては、危険の見える化における本部・本社の役割が非常に大きいと考えられています。
企業の本部・本社が主体となり、各店舗の経営と安全衛生に対する取り組みを行うことで、一元的な管理のもと、職場の安全衛生を向上させられるためです。もちろん、それに伴う各店舗の意識も重要になります。
つまり、危険の見える化による安全衛生の向上には、企業全体で取り組む姿勢が大切なのです。
②「本社・本部」が、「見える化」したモデルのひな形を作成し、各店舗に周知すること。
「危険の見える化」推進においては、企業の本部・本社が見える化すべき事例のモデルを作成します。そしてそれをマニュアルとして配布したりステッカーとして貼付させたりすることで、各店舗に周知させます。
本社がモデル作成を行うことで、均一的な安全衛生対策を行えます。
③「本社・本部」が、作業手順マニュアルを作成する場合は、写真やイラストを活用して、作業手順と安全衛生が一体となった「危険の見える化」した作業手順マニュアルを作成し、それを各店舗に周知すること。
各店舗に周知する作業手順マニュアルには、作業手順だけでなく、安全な作業方法や生じ得る危険のイラスト(危険の見える化)を挿入します。
作業手順と安全衛生対策がひとつにまとまったマニュアルを作ることで、従業員は作業とそれにより生じ得る危険を理解しやすくなります。
④店舗のハザードマップを作成する場合は、「本社・本部」が、モデル的なハザードマップを作成し、各店舗に周知すること。
ハザードマップとは、危険をマップにしたものです。職場のマップをもとに、生じ得る危険を場所ごとに示します。
ハザードマップを職場に貼り出すなどして各店舗にその内容を周知させることで、従業員はどこでどんな危険が起こり得るのか、総合的に把握できます。
⑤動画を作成する場合は、「本社・本部」が、代表的な危険個所の災害防止の動画を作成し、店舗に周知すること。
危険を動画で見える化する場合にも、本社が動画作成を担い、全ての店舗における均一的な安全衛生対策を目指します。
⑥本社・本部(又はエリア担当)が、定期的に各店舗を巡回し、指導すること。
企業の本部・本社の担当者やエリア担当者は、定期的に各店舗を巡回し、安全衛生対策がきちんと行われているか確認します。
不十分な場合には指導を行い、全ての店舗が同じように高い安全衛生を維持できるよう導きます。
多店舗展開している小売業
多店舗展開している小売業について、労働災害の傾向と「危険の見える化」の例をご紹介します。
小売業の労働災害の傾向
毎年小売業で起こっている労働災害の件数は、13,000件を超えます。しかも近年は、件数が増加傾向にあります。
小売業の労働災害の中では、転倒を原因とするものがもっとも多く、全体の35%に及びます。次いで、無理な動作により体を痛めたものが14%、転落が11%と続きます。
転倒や無理な動作という日常的で身近な原因により、小売業の労働災害は起こっているのです。(以下、グラフ、イラストは厚生労働省「職場の危険の見える化実践マニュアル」より抜粋)
小売業の「危険の見える化」例
・転倒の「危険の見える化」例
・脚立からの墜落の「危険の見える化」例
・切傷の「危険の見える化」例
・火傷の「危険の見える化」例
・腰痛の「危険の見える化」例
・激突される「危険の見える化」例
多店舗展開している飲食業
次に、多店舗展開している飲食業について、労働災害の傾向と「危険の見える化」の例をご紹介します。
飲食業の労働災害の傾向
飲食店における年間の労働災害件数は、4,500件前後で推移し、近年は4,700〜4,800件と増加しています。
もっとも多い原因は、小売業同様、転倒によるものです。全体の29%を占めます。次いで多いのが、切れやこすれによる怪我で21%、火傷が16%。小売業で多かった無理な動作による怪我は、飲食業においては8%に留まります。
飲食業は包丁や火を扱うため、切れや火傷による労働災害の割合はどうしても多くなる傾向にあります。
飲食業の「危険の見える化」例
・転倒の「危険の見える化」例
・切傷の「危険の見える化」例
・火傷の「危険の見える化」例
・腰痛の「危険の見える化」例
社会福祉施設で「職場の危険の見える化」を導入する際のポイント
厚生労働省の資料では、社会福祉施設における「職場の危険の見える化」推進について、以下のような6つのポイントを挙げています。
「職場の危険の見える化」6つのポイント
介助に伴う「腰痛予防」や「転倒予防」の見える化
①「人力での要介護者の抱え上げは、原則、行わないこと」及び「福祉用具を活用すること」であり、介助に伴う「腰痛予防」や「転倒予防」 の見える化に、まずは最重点に取り組むこと。② 福祉器具が必要な要介護者には、ケアプランに「福祉用具の使用」を 明記すること(ケアプランに明記するとともに、具体的に使用する「福祉用具を写真やイラストで明示」することも効果的)
③ 介助方法マニュアルに、「福祉用具の使用」を、写真やイラストで明示する。
④「危険の見える化」と同時に、介護職員に対し教育の機会を提供すること(福祉用具を正しく使えば、効率的で便利なツールであること)。 また、動画を活用することも効果的です。
介助以外での転倒防止や交通事故防止の見える化
① 介助以外での転倒防止の見える化②施設利用者の送迎時の交通労働災害防止の見える化
(厚生労働省「職場の危険の見える化実践マニュアル」より)
順に見ていきましょう。
①「人力での要介護者の抱え上げは、原則、行わないこと」及び「福祉 用具を活用すること」であり、介助に伴う「腰痛予防」や「転倒予防」 の見える化に、まずは最重点に取り組むこと。
社会福祉施設では、要介護者の抱え上げによる、従業員の腰痛や転倒が後を断ちません。
しかし、「ボードやリフトの利用」や「体への負担を小さくする方法」など、体を痛めない抱え上げのコツをイラストなどで見える化し周知させることで、従業員の腰痛や転倒リスクは軽減できます。
② 福祉器具が必要な要介護者には、ケアプランに「福祉用具の使用」を 明記すること(ケアプランに明記するとともに、具体的に使用する「福 祉用具を写真やイラストで明示」することも効果的)
要介護者のケアプランに、福祉用具の利用とその詳細についてきちんと明記し、事前説明しておくことは重要です。
要介護者本人やその家族の福祉用具使用についての理解を得ることで、福祉用具を効果的に使えれば、従業員の負担とリスクは少なくなります。
③介助方法マニュアルに、「福祉用具の使用」を、写真やイラストで明示する。
福祉用具は、使用方法を間違えると要介護者を危険に晒す恐れがあります。福祉用具を使用する場合は、写真やイラストを用いた使用マニュアルの整備が必須です。
④「危険の見える化」と同時に、介護職員に対し教育の機会を提供すること(福祉用具を正しく使えば、効率的で便利なツールであること)。 また、動画を活用することも効果的です。
社会福祉施設においては、ただそこにある危険を見える化するだけではなく、正しい介助方法や危険の把握と避け方などを教育する必要があります。イラスト・写真を用いたマニュアルや動画などを効果的に用いて教育を行い、従業員にとっても要介護者にとっても安全安心な環境を作ることが大切です。
① 介助以外での転倒防止の見える化
社会福祉施設では、「濡れた床で滑った」「段差で転倒した」など、介助を原因とした事故以外の事故も起こり得ます。介助以外の危険も見える化し、従業員に注意を促しましょう。
②施設利用者の送迎時の交通労働災害防止の見える化
社会福祉施設では、施設利用者を車で送迎する時の交通事故が一定数起こっています。
送迎時の交通事故を防止するためには、過去の事故事例をもとにした送迎ルートのハザードマップを作成し、マップに注意点をまとめ、交通事故リスクの見える化を図りましょう。
社会福祉施設
社会福祉施設ついて、全国的な労働災害の傾向と「危険の見える化」の例をご紹介します。
社会福祉施設の労働災害の傾向
社会福祉施設における労災は、平成25年で約6,800件でしたが、その後毎年増加し、平成29年では約8,700件になっています。背景には、高齢化による社会福祉施設の需要増があると考えられます。
また、もっとも多い原因は無理な動作による怪我で、全体の34%を占めます。社会福祉施設では、被介助者を支えたり抱えたりする動きが多いため、大きな負荷により体を痛める従業員が多く発生しています。次いで多いのが転倒の33%、そして転落の7%、交通事故の6%と続きます。
社会福祉施設の「危険の見える化」例
・福祉用具(機器・道具)を活用した腰痛予防の見える化例
・人力による抱え上げを行わず、利用者の残存機能を活用する方法の見える化例
・入浴介助での「危険の見える化」例
・トイレ介助での「危険の見える化」例
・介助に伴う転倒の「危険の見える化」例
まとめ
従業員を雇用する企業にとって、労災防止および安全衛生の向上は、重要な取り組みです。従業員の安全を守るためにも、「職場の危険の見える化」は早急に導入すべきでしょう。
「職場の危険の見える化」を進める際のポイントとして、写真やイラストを使った作業手順マニュアルの作成や、動画を利用した教育が挙げられます。
マニュアルは、マニュアル作成に特化したツールを利用することで、簡単に作成できます。動画マニュアルを作成できるツールもあるため、「職場の危険の見える化」を進める際には、これらのツールの利用も検討すると良いでしょう。
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