会社の存続のため、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に着手する企業は年々増加しています。コールセンターももちろん例外ではなく、顧客接点として早急なデジタル化を求められている部門のひとつといえるでしょう。
本記事ではコールセンターのDX推進において、成功事例やDX化に取り組む際のポイントを解説しています。
コールセンターにおけるDXとは
DXとは、デジタル技術を用いてサービスや組織を変革することにより、企業の売上向上を目指すことです。コールセンターにおいてのDXは「業務プロセスをデジタル化し、他社と差別化された顧客体験を提供すること」と言い換えることができます。
コールセンターをDX化するうえでの最終目的は、ITやデータを活用して業務を抜本改革し、以下を達成することです。
・サービス品質向上
・顧客満足度向上
・売上拡大
チャットボットの導入をはじめとするデジタル化は、DXを実現するための手段に過ぎません。「アナログだったものをデジタルに置き換えること」が真の目的ではないことに注意が必要です。
コールセンターのDXの重要性
経済産業省が2018年に発表したDXレポートによると、DXを推進しなかった場合の日本全体の経済損失は、2025年以降現在の約3倍になるとされています。
ここではコールセンターにおいてのDX推進の重要性を3つ紹介します。
1 デジタル競争の勝者になる
コールセンターは顧客と接する窓口であるため、オペレーターの対応ひとつで企業の評価が変わるといっても過言ではありません。競争力の高い企業を目指すために、コールセンターは率先して業務改革すべき部門なのです。
人材不足が積年の課題であるコールセンターにおいて、人材・資金のリソース配分を最適化することは喫緊の課題です。既存のシステムを維持・管理するために割かれていたコストを、新たなシステム構築に充てることが必要だといえます。
人的リソースに依存した運用体制から脱却し、デジタル化によって組織を抜本改革することが、市場の変化に柔軟に対応できる事業構築につながります。
2 顧客満足度の向上
顧客のユーザビリティを向上させるうえでもDXは必須です。顧客が日常的に活用しているコミュニケーションチャネルでサポートを提供できなければ、顧客の満足度は低下するでしょう。
チャットボットやボイスボットなどでリアルタイムな課題解決を実現できるコールセンターは、もはや「当たり前品質」として認識されています。顧客満足度を高い水準で保つことが、企業の売上拡大や顧客エンゲージメントの向上に欠かせない要素なのです。
3 コストセンターからプロフィットセンターへ
コールセンターは、これまで直接企業に利益をもたらさない「コストセンター」として捉えられることが一般的でした。運営においては、コスト削減や業務効率化に重点が置かれていたのです。
デジタル技術を活用することで、コールセンターは利益を生み出す部門である「プロフィットセンター」として機能します。コールセンターに寄せられる貴重なVOC(お客様の声)は、企業戦略や商品・サービスの改善に大きく役立つからです。
VOCはAIをはじめとするデジタル技術を駆使して適切に管理・分析することで、初めて効果的に活用することができます。コールセンターから利益を生み出す仕組みを構築するためには、デジタル化による業務改革で顧客体験を向上させ、他社との差別化を図ることが必要不可欠です。
コールセンターのDX化の事例
ここではコールセンターのDX化に成功した各社の事例を見ていきましょう。
私立大学:AI活用で残業時間とコストの削減に成功
とある私立総合大学では、毎年入試やオープンキャンパスの時期に問い合わせが急増し、残業が常態化していました。FAQで解決可能な問い合わせが全体の8割を占めていたため、AIの活用に活路を見出します。自動応答システムを導入することで、残業時間の削減とともに、顧客のユーザビリティ向上を実現した事例です。
AIチャットボットによるFAQ自動応答システムの導入
→FAQ設置、検索ボックス導入、ナビダイヤル連携を組み合わせ問い合わせの2/3を削減
→残業時間が30%削減され、職員の働き方改革に貢献
→印刷物に掲載するFAQをすべて廃止し、ペーパーレス化とコスト削減を実現
通販会社:データの有効活用で顧客満足度の向上を実現
テレビ通販やカタログ通販を手掛けているある企業は、顧客接点として68回線のフリーダイヤルを管理していました。手作業による非効率な通話分析を改善すべく、ナビダイヤルの分析サポートツールを導入することにしました。データの有効活用により顧客体験の向上に寄与した事例です。
データ分析ツールの導入
→手作業でしていたデータの集計作業を自動化し、分析に要する工数を1/10に削減
→詳細なデータ分析が可能になり、コールセンター席数の最適化、応答率の改善を実現
クレジットカード会社:音声ボットによるリソース配分最適化に成功
あるクレジットカード会社は、キャッシュレス決済の利用拡大による問い合わせ数の増加を課題に感じていました。このまま件数の増加が続けば社内リソースの限界に近づく懸念があったため、DX化による最適な受電体制の構築を目指します。音声ボットによる問い合わせ自動応答化を推進し、社内リソースの配分を最適化することに成功しています。
AI音声ボットの導入
→受電数が平準化され、オペレーターは高度な問い合わせに専念可能に
ネットワークサービス:音声認識システムでコールセンター業務を9割削減
ネットワークサービスを提供する企業のコールセンターは、社内エンジニアから入電する作業チェック業務が大きな負担となっていました。音声認識システムを導入することで、これまでオペレーターが受けていたチェック作業の電話をすべて自動化でき、業務効率の大幅アップに成功しています。
音声認識システムの導入
→受けた電話のほとんどがシステムによる自動応答で完結し、オペレーターの作業量を9割削減
→人的リソース配分の最適化を実現し、業務効率が大幅アップ
→属人的スキルに依存しない信頼性の高い作業チェックを実現
住宅会社:老朽化したCRMシステムの刷新でデータ活用を効率化
属人化した運用、コンプライアンス的な課題を解消し、さらなる顧客満足度向上につなげるべく老朽化したCRMシステムの刷新を実行したある住宅会社。新システム導入により情報の管理精度が向上し、迅速な顧客対応が可能になりました。さらに、データの有効活用により効果的なマーケティング戦略立案にも寄与している事例です。
新CRMシステムの導入
→業務の進捗状況が可視化され迅速な顧客対応が可能に
→過去情報の呼び出しがスムーズになったことで情報の活用が進み、顧客満足度の向上に寄与
→データ分析により適切な顧客のターゲティングを実現
フードサービス:クラウド型CRMへの切り替えでコストや手間を削減
あるフードサービス会社のコールセンターは、顧客のみならず取引先企業からの連絡にも応じ、対応窓口の中核的な役割を担っています。従来活用してきたオンプレミス型CRMのハードウェアが保守切れを迎えたため、クラウド型のCRMソリューションに切り替えを決定しました。
クラウド型CRMソリューションの導入
→3カ月という短期間で本稼働を実現、入れ替えの手間やコストの削減にも寄与
→場所に縛られることのない、災害やパンデミック対策にも有効な業務基盤を確立
コールセンターのDX化に取り組む際のポイント
DXの重要性は理解しつつも、本格的な推進に踏み切れない企業も少なくありません。ここではDX推進が進まない原因と、その解決策を解説します。
ポイント1 IT人材が不足している場合はクラウド型への移行を検討する
自社内にIT人材が不足している場合は、クラウド型コールセンターシステムの活用を検討しましょう。クラウド型の場合、運用保守はサービスプロバイダ側が一括して請け負うため、自社内でIT人材を採用・育成する必要がありません。
直感的に操作しやすいソフトウェアも多いほか、サービスの提供側が効率的な運用をサポートするケースも多く、導入のハードルが低いことが特徴です。
導入の手間もオンプレミス型と比較して少ないため、人員を最小限に抑えつつDX化したコールセンターを軌道に乗せることができます。
ポイント2 予算がない場合は段階的にツールを導入する
「DX推進には大規模な予算や人員の導入が必要だ」というイメージが先行し、一歩を踏み出せない企業も少なくありません。しかしDX化に成功している企業は、段階的にスモールスタートでプロジェクトを進めているケースがほとんどです。
たとえば、オンプレミス型システムは導入や運用にまとまった費用が必要です。対してクラウド型システムは、専用サーバーを用意する必要がないため導入コストを圧倒的に抑えることができます。
導入の効果を検証しつつ段階的にシステムを拡張していけば、金銭的なリスクを抑えながら社内への浸透もスムーズに行うことができます。
ポイント3 失敗のリスクを抑えるならシステム全体の刷新を図る
既存システムを残しながら運用することは、DX成功の足かせになります。老朽化したシステムに追加する形で新システムを導入しても、効率的な運用やデータ分析ができないからです。
データを一元管理できる新たなシステムに集約して運用することで、デジタル化の利点を最大限発揮できます。
まずは既存のシステムを「見える化」し、現状の問題点をはっきりさせましょう。そのうえで、抱えている課題を解消できるツールを比較検討して選んでいくことが、コールセンターの抜本的な改革につながります。
まとめ
経済産業省が警鐘を鳴らしている「2025年の崖」は目前に迫っています。DX化において取り組むべき課題は決して少なくありません。しかしデジタル競争を勝ち抜く企業へと成長させていくためには、避けては通れない道であることは明白です。
まずは既存システムの課題をはっきりさせ、総合的な視点を持って業務改革を推進することが大切です。企業の顔であるコールセンターのDX化を成功させ、ビジネスモデルの競争優位性を明確にしていきましょう。