商品やサービスの情報が簡単に手に入るようになった今では、顧客は購入予定の商品の情報を事前に手に入れ、比較検討することが可能になりました。他社の商品の方が優れていると分かった時点で他社に乗り替えることも、比較的簡単なことでしょう。「いかに顧客に自社の商品を使い続けてもらうか」を考えた時に、カスタマーサクセスが重要になります。
この記事では、カスタマーサクセスについての基本的な知識とともに、カスタマーサクセスが必要な理由や背景について説明しましょう。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは、自社の商品を購入することによって、顧客が期待していた成果を得たり、目標を達成したりすること指します。また、そのための取り組みやその取り組みを実施する部署や職種をカスタマーサクセスと呼ぶこともあります。
有効なカスタマーサクセスが実施されている企業の顧客は、同じ商品を使い続ける可能性が高くなるため、やがて企業に対してもロイヤルティ(愛着)が生まれ、同じ企業の他の商品にも興味や関心を持つでしょう。こうして、長い間、同じ企業の商品を使い続けるようになるのです。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い
カスタマーサクセスと似た言葉にカスタマーサポートがありますが、両者はそれぞれ違った役割を持っています。カスタマーサポートは、顧客が問題を解決するために電話・メールなどで問い合わせをしてきた場合に対応します。一方、カスタマーサクセスは、その問題を先回りして解決します。顧客からの問い合わせを待つのではなく、問題が発生しないように、自ら顧客とコミュニケーションを取っていきます。
カスタマーサクセスは、顧客が期待する成果や目標を達成するために行われるものなので、考えられる問題は事前に予測しなくてはいけません。顧客からの問い合わせをスタート地点として行動を開始するカスタマーサポートとは大きな違いがあることが分かるでしょう。
カスタマーサクセスが注目されている背景
カスタマーサクセスは現在多くの企業に注目され、社会全体に浸透しつつあります。その理由は冒頭にて簡単に説明しましたが、ここではより詳しい背景をお伝えしましょう。
1 市場の成熟化
国を跨いだ営業活動が可能な今では、どこにいても好きなものが手に入り、同じような商品が溢れていると言えます。顧客視点から考えると、選べる商品やサービスが多いというメリットがありますが、企業側からすると限られた顧客を多くの企業で奪い合っていることになります。
一度成功した商品はすぐに模倣されるため、競合との差別化も難しいでしょう。
カスタマーサクセスに取り組み、多くの顧客が企業にロイヤルティを感じてくれるようになれば、他社が似た商品を扱っていたとしても「〇〇社だから安心」「〇〇社だから性能が良い」などの理由で、顧客を逃す機会を抑えられます。
2 サブスクリプションの定着
サブスクリプションとは、サービスや商品を購入するのではなく一定期間の利用契約をすることです。こうして顧客は購入が難しかったような価格帯の商品も気軽に導入しやすくなりました。
サブスクリプションのような契約であれば、使用後に商品に不満を感じた場合、契約期間終了時に契約を更新しなければ簡単に解約出来ます。また、特に機器類のサブスクリプションでは、故障時や不調時の対応も迅速に行ってもらえるでしょう。
このように、サブスクリプションの活用には多くのメリットがあるのですが、企業側から見ると常に顧客に解約の選択肢が用意されているため、カスタマーサクセスをより重要視しなくてはいけません。
カスタマーサクセスに取り組んだ方が良い理由
企業がカスタマーサクセスに取り組むべき理由は次のようなものです。
理由1 顧客の解約数を減らす
顧客が抱えるであろう問題を先回りして解決することにより、顧客にネガティブな感情が生まれにくくなります。優れている商品だと顧客に感じてもらえれば、顧客が競合に流れてしまうことを防げるのです。
理由2 顧客にロイヤルティが生まれる・LTVが大きくなる
満足度の高い商品は、商品だけでなく企業そのものの信頼につながります。顧客から多くの信頼を寄せてもらえるようになることで、グレードの高いプランの契約に至るアップセルや別の商品の並行購入であるクロスセルが期待出来るでしょう。
ロイヤルティが高められた顧客は必然的に、顧客が取引を開始してから終えるまでに企業にもたらす利益であるLTV(顧客生涯価値)も大きくなります。
理由3 商品の開発現場へのフィードバックが出来る
カスタマーサクセスでは顧客との対話が欠かせません。顧客から集まった意見を開発現場に伝えれば、商品をより顧客に満足してもらえるものに改善出来るでしょう。
このフィードバックは商品の質を高めるだけでなく、課題を提案した顧客のロイヤルティの向上にもつながります。
SaaSビジネス以外でも必要とされるカスタマーサクセス
SaaSビジネスとは、Software as a Serviceの略で、今までパッケージ製品として販売されていたソフトウェアをインターネット経由で提供することを指しています。代表的なSaaSにはGoogle Workspaceなどがあり、インターネット上に情報を保存することが可能で、働く場所に関係なく仕事が出来るなどのメリットから、現在非常に多くの企業がSaas形式のソフトウェアを活用しています。
高額なソフトを購入するわけではなく契約期間内だけ費用が発生するSaaSでは、顧客の離脱も容易であることから、特にカスタマーサクセスが重要視されているのです。
しかし実際には、SaaSビジネス以外の商品であってもカスタマーサクセスは必要です。先ほどもお伝えしたように、カスタマーサクセスは顧客の期待する成果を実現させ、目的を達成させるために行われるものであり、全ての業界やビジネスモデルに欠かせない存在だと考えるべきでしょう。
カスタマーサクセスとKPI
カスタマーサクセスを行うためには、次の5つのKPIを意識する必要があります。それぞれの数値を把握することで、どこに改善点があり何を行うべきなのかが分かるでしょう。
①解約率
解約率は既存顧客が契約を解約する割合を計算したもので、チャーンレートとも呼ばれます。業界やビジネスモデルによって変わりますが、平均的な解約率は3.0%程度となり、それよりも数値を下げられることが理想でしょう。
計算方法は顧客数ベース・収益ベースの二通りがありますが、複数の商材を扱っている場合は収益ベースが用いられることが多いです。
(解約数÷顧客数)×100(%)
{(単価×解約数)÷売上}×100(%)
②維持率
維持率は商品やサービスを使い続けている顧客の割合のことで、リテンションレートとも呼ばれます。顧客の動向を解約率よりもポジティブな面から捉えられるでしょう。
こちらも解約率と同じように、商材が複数ある場合は収益ベースの計算になります。
{(期間終了時の顧客数-期間中に増加した顧客数)÷期間開始時の顧客数}×100(%)
{(期間終了時の収益-期間中に増加した収益)÷期間開始時の収益}×100(%)
③オンボーディング完了率
オンボーディング完了率は、商品を導入した顧客が定着するまでの期間のことです。何を基準として「オンボーディングが完了した」と判断するのかは商品によって異なります。「購入直後の初期設定が完了した」「チュートリアルの閲覧が済んだ」などがオンボーディングの基準例です。
(オンボーディングが完了した顧客数÷オンボーディング期間内の顧客数)×100(%)
④アップセル率・クロスセル率
アップセルとクロスセルが増えれば、顧客のLTVが高められるとお伝えしました。どのような提案時にアップセル・クロスセルを実現したのかを数値化することで、その提案が有効であるのかが分かるでしょう。
⑤ネットプロモータースコア
ネットプロモータースコアは顧客のロイヤルティを計算した数値で、複数の顧客にアンケートを受けてもらうなどの方法で収集します。対象者を選び「この商品やサービスを知人や友人に勧める可能性はありますか?」という質問に対して0〜11までの11段階で評価してもらいます。
0〜6はロイヤルティの低い「批判者」、7〜8は「中立者」、9〜10は「推奨者」に分類し、その割合を下記の式で計算します。
ネットプロモータースコアの数値が高いほど、カスタマーサクセスが成功している状態だと言えるでしょう。
推奨者の割合(推奨者÷回答者全員の数)-批判者の割合(批判者÷回答者全員の数)
まとめ
顧客が自由に商品やサービスを選べ、他の商品やサービスへの乗り替えも比較的容易な今では、既存顧客に長く商品を利用してもらうことに注力する必要があります。カスタマーサクセスを取り入れて、多くの顧客のロイヤルティを高めましょう。
また、カスタマーサクセスに取り組むには、顧客情報の管理が必要です。営業ツールやセールスイネーブルメントツールを利用すれば、情報の管理が便利になり、顧客への適切なアプローチタイミングも分析できるようになります。カスタマーサクセスを成功させるには、便利なツールの活用も検討するといいでしょう。

