人間はどんなに気をつけていてもミス、つまりヒューマンエラーを起こしてしまう生き物です。しかし、業務で発生したエラーは自己責任では済みません。
業務関連のエラーは大きなトラブルに発展する恐れがあります。そのため、可能な限り事前に発生を防止し、万が一エラーが発生した際には適切な対応を行い、その被害を食い止めなければなりません。
では、そのためにはどのような対策を行えばよいのでしょうか。本記事では、ヒューマンエラーの原因とその対策のポイントについて解説します。エラー対策の整備にお役立てください。
ヒューマンエラーとは
ヒューマンエラーとは、人間が起こすミスのことです。業務上のヒューマンエラーには、大きなトラブルに発展してしまう恐れがあります。例えば、ヒューマンエラーによって会社の信頼を損なったり、業績が悪化したり、最悪の場合には業務停止や倒産を引き起こす可能性も考えられます。
しかし、人間はコンピューターと違って、思い違いや物忘れなどを起こしてしまう生き物です。絶対にミスをしないことは不可能です。よって、ヒューマンエラーの原因や対策を考える際には「人間はミスをする可能性がある」ことを理解した上で、話を進めなければなりません。
ヒューマンエラー以外のミス
業務を進める上で発生する作業中の事故には、ヒューマンエラー以外を原因としたものもあります。以下のようなミスはヒューマンエラーには当てはまらないので注意しましょう。
- 機械のトラブル:人間が起こしたミスが原因ではないエラー。
- マニュアルの誤り:マニュアル自体が間違っており、マニュアル通りに遂行した結果発生したエラー。
- ただし、自社でマニュアル作成をしており、マニュアルを誤った内容で作成してしまった場合は、マニュアル作成時のヒューマンエラーになります。
ヒューマンエラーの種類
ヒューマンエラーは大きく以下の2種類に分類されます。
- コミッションエラー
- オミッションエラー
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
コミッションエラー
コミッションエラーの定義
「やるべきことを誤ったやり方で行うこと」「やらなくていいことをやってしまうこと」などによって発生するエラーを、コミッションエラーと呼びます。行動ありきで起こるこのエラーは、「実行エラー」「誤処理エラー」などとも呼ばれます。
具体例
- 表のA行を使用して計算すべきところを、誤ってB行を使用してしまった
- 間違った手順で作業を進めてしまった
これは、業務に不慣れな場合に発生しやすいエラーで、その防止にはマニュアル確認が効果的です。
オミッションエラー
オミッションエラーの定義
「やるべきことを行わなかったこと」によって発生するエラーを、オミッションエラーと呼びます。行動ありきで起こるコミッションエラーと異なり、行動の省略によって発生する点が、このエラーの特徴です。
具体例
- 事前にデータの確認をしなかった
- 作業の手順を一つ抜かして進めてしまった
- 上司に報告や確認をしていなかった
これは、業務に慣れてきた頃に発生しやすいエラーで、慣れによる失念や意図的な省略が原因になります。
ヒューマンエラーの主な原因
次に、ヒューマンエラーが発生する原因について確認していきます。ヒューマンエラーの具体的な原因はケースバイケースですが、次のようなことが根本原因であることが多いです。
- 思い込み
- 判断ミス
- 手抜き
- 知識、スキル不足
- 情報共有不足
各原因について詳しくご説明します。
原因1:思い込み
思い込みがヒューマンエラーに繋がる例は少なくありません。この場合、間違った先入観をもとに業務を遂行してしまうことで、従業員自身が予想していなかったエラーが発生します。
例えば、「商談の日時を実際とは別の日だと思い込んでいた」「いつもと同じように作業を進めたら、今月から作業内容が変わっていた」などです。
自分の中で意図せず発生する思い込みを完全に予防するのは困難です。しかし、これを避けるためにこまめな情報の確認は徹底すべきでしょう。
原因2:判断ミス
物事を正しく認識していたにもかかわらず、取るべき判断を誤ってしまったことでエラーが発生するパターンもよく見られます。
例えば、「こちらの方がいいだろうと勝手にデザインを変えて先方に送ってしまった」「先方からの納期を早める相談に対し、間に合うだろうと勝手に了承してしまった」などです。
このような判断ミスの根底にも、「自分の判断は正しいだろう」「なんとかなるだろう」などという思い込みがあります。これを防ぐには、周囲との情報共有や上司への確認が重要です。
原因3:手抜き
「早く作業を終わらせたい」「面倒な作業を楽にしたい」という思いから、従業員が業務に対して手抜きをし、これがエラーの原因となることもあります。時間を短縮したり楽をしたりするためにした手抜きが大きなエラーに繋がれば、かえってその収束に多大な労力と時間を要することになりかねません。
例えば、「作業内容の確認を怠って、異なる作業をしてしまった」「作成書類を見直すことなく先方に提出してしまい、内容の間違いが発覚した」などです。
手抜きは、経験を積み業務に慣れたことによる慢心から発生する傾向にあります。
原因4:知識・スキル不足
知識やスキル不足によるエラーも比較的起こりやすいものです。
例えば、「間違った方法で売上の集計を出してしまっていた」「機械の扱いがうまくいかず、生産している製品に傷をつけてしまった」などです。
経験が浅く業務に慣れていない時には、ある程度の知識不足やスキル不足は仕方がありません。ただし、これらの不足を効率的に補い、重大なエラーの発生を防ぐ仕組みづくりは必要でしょう。
原因5:情報共有不足
周囲との情報の共有がうまくいっていない場合にも、エラーは発生します。
例えば、「会議の日時変更を共有できておらず、参加できない従業員が発生した」「指示された作業に誰かが対応しているだろうと思っていたら、誰も対応していなかった」などです。
密にコミュニケーションを取れる環境が整っていなければ、万全の情報共有はなされません。関係する人数が多いほどこのリスクは高く、これが大きなエラーを引き起こすきっかけになる恐れがあります。
過去に起きたヒューマンエラーの事例
過去に、ヒューマンエラーが重大な問題に発展した企業は決して少なくありません。ここでは、今までに発生したヒューマンエラーの事例を3つご紹介します。
2005年発生:みずほ証券ジェイコム株大量誤発注事件
担当者が「61万円1株売り」とする売り注文を「1円61万株売り」とコンピューターに入力してしまったことにより、通常ではあり得ない売り注文が発生し、みずほ証券は巨額の損失を被りました。コンピューター画面には警告表示がされたものの、担当者はこの警告に従いませんでした。
2007年発生:年金記録5,000万件の不備「消えた年金」問題
当時年金を管理していた社会保険庁では、データ管理時に発生したヒューマンエラーにより、5,000万件分の年金データが基礎年金番号に統合できず、持ち主不明の年金記録になってしまいました。
2017年発生:新幹線のぞみ34号台車亀裂事件
JR西日本の新幹線「のぞみ34号」に亀裂が発生。車掌らは異変に気づいたにもかかわらず、走行を継続させました。博多駅を発車した車両には、走行中に異音・異臭が確認されていましたが、すぐに点検されることはありませんでした。名古屋駅にてようやく床下点検が行われ、油漏れの発見により運転は中止されましたが、詳しい調査の結果、このままの走行には脱線事故につながる危険性があったと判断されています。
ヒューマンエラーを対策する際のポイント
ヒューマンエラーの対策を講じる際には、次の3つのポイントを意識する必要があります。
- エラーの可能性を事前に検知する仕組みをつくる
- エラーの事例を参考にする
- エラーを分析し予防策を整備する
これら3点を重視することで、より具体的で実情に即した対策の構築が可能になります。
ポイント1:エラーの可能性を事前に検知する仕組みをつくる
ヒューマンエラーを防ぐには、エラーが発生する可能性を事前に検知する仕組みづくりが重要です。例えば、複数人の従業員で行うダブルチェックやトリプルチェック、間違った操作を行った際にエラー表示が出るシステム導入などが、これにあたります。
作業をする担当者本人だけでなく、他の従業員やシステムの目を入れることで、エラー発生の可能性は低減できます。
ポイント2:エラーの事例を参考にする
過去に起こったヒューマンエラーの発生事例や対策を参考にするのも、自社の対策構築に有効です。「過去にどのようなエラーが起きているのか」「他社ではどのような事例があるか」を確認し、その内容や対策を参考に、自社の対策を練りましょう。
特に自社と同じ業界・業種の事例は参考にしやすいので、必ず確認するようにしてください。
ポイント3:エラーを分析し予防策を整備する
ヒューマンエラーが起こった時には、まずその収束に力を入れることになります。しかし、問題が収束すればそれで終わりではありません。必ず起こったヒューマンエラーについて詳しく分析を行うようにしましょう。
分析にあたって重要なのは、エラー発生の原因とその対策です。今後同じエラーが起こることのないよう、原因を正確に分析して対策を整備し、それを社内に共有するようにしてください。
具体的なヒューマンエラーの対策方法
最後に、ヒューマンエラー対策の具体例を4つご紹介します。
- 過去のヒューマンエラーをまとめる
- 業務の進め方やチェック体制を見直す
- 従業員間の情報共有を強化する
- マニュアルを整備する
それぞれの対策について詳しく解説します。
対策1:過去のヒューマンエラーをまとめる
ヒューマンエラー対策の構築は、今までに社内で起こった実際のエラーをまとめることから始めます。「起こったエラーの内容」「その分析結果、原因」「実施した対策」を一覧にし、確認できるようにしてください。この時、実際にはエラーに至らなかったもののエラーになりそうだった案件、つまりヒヤリ・ハットの事例もまとめておくことをおすすめします。
実際のエラー事例を認識できれば、エラー防止に対する従業員の意識は向上し、万が一エラーが発生した場合にも適切な対応を取りやすくなります。
対策2:業務の進め方やチェック体制を見直す
エラー防止のためには、業務の進め方やチェック体制を見直すことも大切です。「手順は正しいか」「ダブル・トリプルチェックは適切に運用されているか」「責任者は明確か」など、これまでの業務の在り方を見直し、より安全でリスクの低い業務進行を目指しましょう。
特に重要なチェックポイントにおいては、複数人で確認するチェック体制にすると、エラー発生を未然に防ぎやすくなります。
対策3:従業員間の情報共有を強化する
従業員間で情報共有がうまくいっていないと、エラー発生のリスクは高くなります。そのため、企業は手軽で密に情報共有ができる仕組みづくりに力を入れる必要があります。これには、ITツールの活用も効果的です。例えば、情報共有ツール、タスク管理ツール、業務フローシステムなどのツールを活用すれば、手軽にリアルタイムの情報共有が実現します。
また、ただ情報を共有するだけでなく、従業員全員が同じ方向を向いてエラー防止に取り組むことも大切です。対策には企業全体で取り組み、またエラーを起こしても隠さなくていいような風通しの良い環境づくりにも努めましょう。
対策4:マニュアルを整備する
業務に関するマニュアル整備は、一般的なエラー対策のひとつです。判断ミスや知識・スキル不足などによるエラーは、マニュアルを確認することでその発生を予防することができます。
このマニュアル作成時に気をつけたいのが、「誰にでもわかる内容で作成すること」「作業や確認の手順を載せること」「ミスしやすいポイントに触れること」です。写真や図も適宜用いながら、欲しい情報をすぐに得やすいマニュアルを目指しましょう。
内容の充実したマニュアルの整備は、エラー防止だけでなく、業務の属人化防止や人材育成に対するコスト削減にも繋がります。
まとめ
ヒューマンエラーを完全になくすことは困難です。しかし、事前に対策を用意しておけば、それはエラー発生の予防やエラーが発生した場合の被害抑制に繋がります。
万が一のリスクを回避するためにも、各社は自社に合ったヒューマンエラー対策の整備を進めるべきでしょう。
また、この対策として有効なマニュアルの共有については、マニュアル作成ツールの導入もご検討ください。
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