インシデントは、事故などのトラブルが発生する恐れがある状態を指す言葉で、さまざまな業界で使用されています。しかし、アクシデントと意味が似ているため、その違いが分かりにくいと感じる方も多いようです。
この記事では、インシデントの意味に加え、アクシデントとの違いも分かりやすくお伝えいたしますので、ぜひ参考にしてください。
インシデントの意味
インシデントとは、英単語の”incident”に由来し、直訳すると「事件、出来事」という意味になります。一般的には、何らかの事件や事故につながる可能性があるミスや問題を指します。
ビジネスの場においては、インシデントは「企業にとって好ましくないトラブルにつながる可能性があるミスや問題」と考えられます。その中でも、企業に与える損害が特に大きいものは「重大インシデント」と呼ばれることがあります。
最近では、多くの業界でインシデントという言葉が使われるようになりましたが、以前は主に医療、情報セキュリティ、航空、鉄道などの業界で危機管理用語として使用されていました。
インシデントと似た使い方ができる言葉として「ヒヤリ・ハット」があり、こちらは工場や建築現場などで積極的に用いられています。両者は同じような意味を持ちますが、「ヒヤリ・ハット」は判断ミスや不注意といった人為的ミスを指すことが多いのに対し、インシデントは人為的ミスのほか、自然災害やシステムトラブルなどが原因のトラブルも含む言葉です。
インシデントとアクシデントの違い
アクシデントは、インシデントと意味が似た言葉で、英語の”accident”を直訳すると「事件、事故」となり、インシデントと区別がつきにくいと感じる方も多いようです。しかし、実際にはこの2つには大きな違いがあり、それぞれの特徴を理解して使い分けることが重要です。
インシデント
インシデントは、トラブルにつながる可能性があるミスや問題を指します。インシデントの段階でミスや問題に気づき、解決できれば、トラブルの発生を防ぐことが可能です。
アクシデント
アクシデントは、インシデントが解決されずにトラブルに発展した状態を指します。インシデントの段階で適切な対応をすることで、アクシデントの発生を防げると考えるとよいでしょう。
インシデントとアクシデントを混同してしまうと、適切な危機管理が難しくなりますので、注意が必要です。
インシデントとアクシデントの例
インシデントとアクシデントの違いをより分かりやすく理解するために、具体的な例を紹介します。これらの例を参考に、2つの違いをしっかりと把握してください。
企業で発生しやすいインシデントの例
- 請求書を郵送する際に封筒を入れ間違えてしまい、別の会社宛の請求書を送ってしまった。
- システム担当者に業務が属人化してしまった結果、社内システムのセキュリティが弱くなってしまった。
- 最後に退勤した社員が事務所の施錠を忘れてしまった。
インシデントからつながるアクシデントの例
- 発送作業のミスにより、別の会社の請求内容を確認してしまった取引先が、自社への販売価格に比べて他社の価格の方が値引きされていることを知り、契約の解除を希望するという問題に発展した。
- 社内システムに外部から侵入され顧客情報が漏洩し、企業の信頼を失ってしまった。
- 事務所が施錠されていなかったことにより、事務所内の貴重品が盗難される被害に遭った。
インシデント管理のポイント
アクシデントとインシデントの違いを理解することで、アクシデントを防止するためにインシデントの管理が欠かせないことが分かります。インシデント管理のポイントについて説明します。
ポイント1:インシデントにレベルを付け、対処の優先度を決める
インシデントは通常の業務の中で発生するものであり、同時に複数のインシデントが発生することもあります。そのような場合に迅速かつ最適な判断を行うために、過去のインシデントや発生し得るインシデントをあらかじめレベル分けしておくと良いです。
レベルによって優先順位が明確になれば、優先すべきインシデントを後回しにしてしまい、大きなトラブルに発展する事態を避けられるでしょう。インシデントのレベル分けには、一目でインシデントの種類や優先順位が把握できる表や一覧を用意しておきます。そうすれば、急ぎの判断が求められる場面でも、迅速な対応が可能になります。
ポイント2:インシデントを処理するための流れを考えておく
インシデントが発生した場合、1人の担当者や1つの部署のみでその処理が難しいことが多々あります。例えば、システム上のインシデントであれば、業務担当者がシステム担当者に相談し、対処を依頼することもあるでしょう。
インシデント発生時に効率よく問題を解決するためには、社内でインシデントに関する情報を迅速に共有し、その種類に応じて最適な担当者に連携する流れを事前に考えておくことが重要です。インシデントを的確に迅速に対処できる仕組みが整っていれば、アクシデントの防止効果がより期待できます。
ポイント3:インシデントの発生を共有して再発防止策を考える
インシデントが発生し、そのミスや問題に気づくことができれば、アクシデントの発生を防げます。しかし、アクシデントが防げたからといって、インシデントに対する対応がそれだけで終わってしまうと、インシデントが評価されず、共有される機会が失われます。
その結果、社内で同様のインシデントが再発し、やがてアクシデントに発展するリスクが高まります。発生したインシデントについて社内で情報を共有すれば、再発防止策を考えることが可能になり、同様のインシデントを防ぐことができるでしょう。
ただし、自分のミスを共有することは誰もが嫌がるものです。そのため、インシデントが発生した際の情報共有を促すだけでなく、共有しやすいルールや環境を整える工夫も必要です。インシデント共有のハードルを下げるために、インシデントシートなどのテンプレートを用意するのも良い方法です。
インシデント管理とは?
インシデント管理は、インシデントの発生から解決までを一連の流れとして捉え、的確に対処するためのプロセスです。インシデント管理のプロセスは、一般的に以下のステップで構成されます。
インシデント管理のプロセス
- インシデントの検知と報告
- インシデントの調査と分析
- インシデントへの対応
- インシデントの解決
- インシデントの記録と分析
- 再発防止策の検討と実施
インシデント管理では、これらのステップをスムーズに実行するために、適切な体制、手順、ツールなどを整備することが重要です。
インシデント管理の重要性
適切なインシデント管理により、同様の問題の再発を防止し、企業の信頼性を維持することができます。インシデント管理は、企業の安全性を確保し、事業の継続性を維持するために不可欠なプロセスです。
インシデント管理ツールの活用
効果的なインシデント管理には、専用のツールを使用することで、迅速な対応と情報の可視化が可能になります。インシデント管理ツールは、インシデントの発生から解決までのプロセスを管理し、関連する情報を一元的に管理することができます。また、インシデント管理ツールは、インシデントの発生状況や対応状況を可視化することで、問題点の早期発見や改善策の検討を支援します。
まとめ
インシデントの基本的な意味とアクシデントとの違いについて、具体的な事例を用いて分かりやすく説明しました。インシデントを適切に管理することは、企業のリスク管理において重要であり、重大なアクシデントを防ぐ効果が期待できます。
日常業務で発生し得るインシデントについての情報を共有すれば、同じミスが社内で繰り返されることも防げます。社内での情報共有をスムーズに行うために、情報共有ツールの導入も検討してみてはいかがでしょうか。