SOP（標準作業手順書）という言葉をご存知ですか？これは、マニュアルに似たものですが、いくつかの違いがあります。
この記事では、SOPの活用メリットやマニュアルとの違い、そしてその作成手順について解説します。SOPの作成を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
SOP（標準作業手順書）とは
SOPとは「Standard Operating Procedures」の略で、日本語では「標準作業手順書」と言います。
これは、業務を行う上で最も標準的な手順を記載した指示書を指しており、誰が行っても安全かつ確実に業務を遂行するために作成されます。また、効率的な業務の進行を再現可能にすることも目的としています。
SOPには、業務遂行に欠かせない情報のみが記載されており、製造業や医療・医薬の現場で多く使用されます。
- 医療業界：医療機関では、治療や手術の際に標準化された手順を遵守することが求められます。特に治験においては、SOPに従うことが法律で義務付けられています。
- 製造業：製造プロセスでの一貫した品質を保つために、SOPが広く活用されています。これにより、製品の品質管理や安全性を確保します。
- 医薬品業界：新薬の開発や製造において、正確な手順が必要とされるため、SOPは必須です。規制当局からの監査でもSOPの遵守が確認されます。
- 食品業界：食品の製造・加工において、衛生管理や品質管理を確実に行うためにSOPが利用されます。
- サービス業：特にフランチャイズチェーン店などでは、サービスの一貫性を保つためにSOPが使用されます。
これらの業界では、SOPを用いることで業務の標準化を図り、品質の維持や効率的な業務遂行を実現しています。
特に医療業界の治験では、SOPに基づいて業務を進めることが義務付けられています。
SOPの活用メリット
SOPがあることで企業が得られるメリットは次のようなものです。これらのメリットを知ることで、SOPの必要性を理解することができます。
メリット1: 業務の効率化
SOPによって標準的な手順が明確になると、経験の浅い従業員も業務フローを理解しやすくなり、試行錯誤や他の従業員に確認する時間を削減できます。
また、作業手順や判断基準が明確であれば、ミスや手戻りが減少し、業務がスムーズに進行します。
メリット2: 業務の属人化防止
担当者しか手順を把握していない業務は属人化しやすく、担当者が不在時に業務が滞るリスクがあります。しかし、SOPがあれば誰でも該当業務を担当できるため、担当者不在時でも問題なく業務が進みます。
業務の属人化は企業にとってマイナスであり、防ぐべきです。
メリット3: 従業員の意識向上
SOPがあれば、従業員は自ら不明点を何度でも確認でき、手順の習得がスムーズになります。ミスが減れば、従業員のモチベーションも高まります。
熟練した従業員も、SOPと照らし合わせて自身の作業を再確認し、改善することで、業務の役割や重要性を再認識し、責任感や当事者意識が生まれます。
実際の作業担当者がSOPの作成・改善を行うことで、より良い方法を考える組織風土が定着し、SOPの重要性が増します。
メリット4: 教育に必要な時間の短縮
SOPを教育に取り入れることで、新入社員教育や引き継ぎの際に必要な時間が短縮できます。SOPを通じて基本的な知識や手順を事前に習得させることで、教育がスムーズに進行します。
事前に基本的な作業順序や判断基準を知っていると、直接の教育時間が短く済みます。また、事前に知識があることで、業務理解も深まりやすくなります。
教育時間の確保が難しい場合でも、SOPを活用することでその問題を解決できます。
メリット5: 安全性の向上
特に危険を伴う作業では、SOPが安全性の向上に役立ちます。SOPがあれば、必要な作業内容や手順が明確になるため、ミスが発生しにくくなります。ミスが減少することで、安全性が保たれます。
些細なミスが従業員の怪我につながるような業務では、SOPの存在が安全性の確保に欠かせません。
SOPとマニュアルの違い
SOPとマニュアルは、どちらも業務内容や手順を伝えるための文書ですが、役割が異なります。
SOP
SOPは、作業内容や業務の標準的な手順を詳しく記載した指示書です。これは未熟な従業員向けに作成されており、誰でも作業内容や手順が理解できるようにします。これにより、担当者の技能に依存せず、成果物の質を一定に保つことができます。
SOPの特徴は、「必ず実施しなければならない手順」のみを記載する点です。この点が、業務の全体像や注意点、コツなどを記載するマニュアルとは異なります。
マニュアル
マニュアルは、業務に関する様々な情報を記載した文書です。全従業員を対象に作成され、業務の全体像や円滑な進行のための注意点、コツ、他部署との関係性、過去の事故事例、トラブルシューティングなど、多岐にわたる情報が含まれます。その中には、具体的な作業内容も含まれています。
つまり、SOPはマニュアルに含まれるものであり、マニュアルの一部と捉えることができます。
SOPの作成手順
SOPには決まった書式はありませんが、次のような手順で進めると、伝わりやすいSOPを作成できます。
手順1: 作成する業務を選び、担当作成者・承認者を決定する
最初に、SOPを作成すべき業務を選定します。具体的には以下のような業務を優先してください。
- 組織の目標に関連する業務
- 企業の基盤となる業務
- 急ぎで改善が必要な業務
SOPを作成する業務が決まったら、その業務のうち、どのプロセスのSOPを作成するか決定します。この段階で、SOPの作成者と承認者も決めてください。
例: A業務の取り扱い部品が多く、ミスが多いため、部品交換作業のSOPを作成する。
手順2: SOPの目標を明らかにする
SOPは、成果物および作業手順を標準化するために作成されます。SOPを作ることで、該当の業務をどのような結果に結びつけたいかを決めてください。この目標は数値化されている方が、成果測定がしやすくなります。
例: B業務で作成した部品の◯割以上が規定をクリアすること。
手順3: SOPを利用するタイミングと利用者を考える
完成したSOPを使用するのは誰か、またそのタイミングを考慮します。SOPを使用する人に合わせて専門用語や基礎知識のレベルを調整します。また、使用するタイミングによって、作業内容の表現も変わります。
手順4: SOPのスタイルを決める
該当業務の内容や利用者、タイミングに合わせてSOPのスタイルを決定します。代表的なSOPのスタイルは以下の通りです。
- ステップ式：シンプルな箇条書き形式で、ボリュームの少ないSOPに適しています。
- フローチャート式：複数の部署をまたぐ手順や分岐のあるSOPに適しています。
- 段階的ステップ式：手順が多く、段階ごとに進むSOPに適しています。
手順5: 実際にSOPを作成する
SOPのスタイルが決まったら、本文を作成します。本文の他に表紙、目次、用語集、参考資料を追加することも忘れないでください。最後に、承認者が内容を確認し、問題がなければ完成です。
手順6: 運用方法を決定する
SOPは作成しただけでは形骸化する恐れがあります。定期的に改善・更新し、最新の情報にアップデートする必要があります。そのためには、運用担当者を選定し、長期的にSOPを管理してください。同時に、すぐに運用するのではなく、仮運用期間を設けて実務業務とSOPの内容が一致しているかを確認することもおすすめです。
SOPを作成する際のコツ
SOPを作成する際には、誰が読んでも分かりやすいものに仕上げる必要があります。ここでは、SOP作成のコツをまとめました。
コツ1: 簡潔で分かりやすくまとめる
SOPは業務を標準化するための指示書であり、作業中に確認することもあるため、可能な限り簡潔で見やすくする工夫が必要です。以下の点を意識しましょう。
- 一つの文章を短くシンプルにまとめる
- 図や画像、写真、動画などを活用して分かりやすくする
- 重要な事項は冒頭に記載して目立たせる
- 必要のない情報は削除する
要点を明確に伝えるため、関連していても直接関係のない情報は含めないようにしてください。余計な情報が多いと重要な項目が見えにくくなります。
コツ2: 成果測定を行う
SOPを導入した成果を測定するために、仮運用を行い、目標が達成されているかを確認しましょう。数値化された目標を設定しておくと、成果の測定がしやすくなります。成果が確認できたら、本運用に移行しましょう。
成果測定の結果は、現場の従業員にも共有することが重要です。成果が出ていることが分かれば、積極的にSOPを活用するようになり、SOPが形骸化するのを防げます。
コツ3: 常に最新の状態を維持する
SOPは常に最新の状態である必要があります。例えば、システムがアップデートされたのに古いままになっていたり、使用する部品が変わったのに情報が更新されていなかったりする場合、ミスが発生し、新人教育にも使えない資料になってしまいます。
SOPを常に最新の情報に更新するためには、管理担当者を決めておくことが重要です。また、最新でないSOPは形骸化しやすく、正確な作業内容や手順が確認できなくなります。SOPを形骸化させず、活用されるSOPにするためには、常に最新の状態を維持することが必須です。
コツ4: ツールを利用する
SOPを作成する際には、マニュアル作成ツールなどを利用すると便利です。ツールを使用することで、デザインや書き方を考える必要がなくなり、作成時間を短縮できます。ツール内のテンプレートに従って作成すれば、スムーズに進行します。
また、SOPを関係者に共有したり、最新版に更新したりすることも、ツール上で管理されているSOPであれば簡単に行えます。
まとめ
SOPは、業務の標準化を図る上で欠かせないツールです。特に、多くの従業員が同じ手順で作業を行う必要がある業務では、その効果が顕著に現れます。SOPを適切に作成・運用することで、作業の効率化、ミスの削減、そして最終的な成果物の質の向上が期待できます。企業全体のパフォーマンス向上にも貢献するため、SOPの重要性は非常に高いと言えます。
ご紹介した作成のコツやポイントを参考にしながら、自社に最適なSOPを作成し、運用してください。SOPの効果的な活用は、業務の効率化と品質向上を支える強力なツールとなります。
