一般的に、会社で新たに物品を購入したりサービスを導入したりする際には、必ず決裁が必要です。決裁権を持つ者は会社によって異なりますが、通常は一部の者に限られており、役職によって定められていることが多いでしょう。そのため、商談では誰がその決裁権を持っているのかを把握することが成約の鍵を握っていると言えます。
この記事では、決裁者についての知識を深め、商談の中で決裁者を探る具体的な方法を説明します。
決裁・承認・稟議の違い
社内で行われる手続きには、決裁に似たものとして「承認」や「稟議」があります。これらの違いが曖昧になっている方も多いため、それぞれの役割を理解しておきましょう。
「承認」は決裁の前段階に行われる判断
ビジネスの場では、承認よりも決裁が重要であり、多くの場合、決裁の前段階として承認の工程が発生します。
具体的には、【担当者が提案を受け入れる → 直属の上司の承認を得る → 決裁者が提案を判断する】という流れです。
ただし、企業によっては「承認」と「決裁」を同義で使用する場合もあるため、商談先の企業がこれらの言葉をどのように使っているかを見極める必要があります。
「稟議」は文書を使って決裁や承認を得ること
稟議は、決裁や承認を得るための手段です。文書を使って決裁や承認を進めることで、会議を開く手間を省くことができます。この際に利用する書面を「稟議書」と呼び、企業によって書式が定められています。
また、決裁は決裁者が1人で判断を下す行為であるのに対し、稟議は複数の役職者が順番に回覧して判断を下していくという違いもあります。そのため、稟議による決裁は通常の決裁よりも時間がかかると考えておいた方が良いでしょう。
決裁者を探る方法
決裁者は企業によって人数が異なります。
従業員の少ない企業では、社長のみが決裁権を持つことが多く、会社の規模が大きくなると決裁者が増え、決裁者ごとに決裁可能な金額の幅が設定されている場合があります。具体的には、100万円までの決裁権を部長が持ち、それ以上の金額は取締役が決裁する、という例が挙げられます。
企業によって決裁権限の幅は異なるため、少額の案件でも社長決裁が必要な場合もあるでしょう。決裁者を把握することは容易ではありませんが、以下の方法が有効です。
方法1: 企業の組織図や企業規模を確認する
企業のホームページを閲覧することで、その企業の規模を把握できます。組織図を確認すれば、商談の担当者と決裁者との距離感を掴むことができるでしょう。商談前にこの情報を頭に入れておくことが重要です。
方法2: 商談中に決裁者を探る
企業のホームページを確認することで決裁者の候補を予測できますが、確実な情報を得ることは難しいです。商談中のやりとりを通じて、決裁者を見極める必要があります。商談で決裁者と決裁までのルートが把握できれば、クロージングまでの流れがスムーズに進むでしょう。
ただし、決裁者を探りたいという気持ちが先行しすぎて、担当者を軽視してはいけません。担当者に「自分は決裁者でないから軽く扱われた」という印象を与えてしまうと、提案の機会すら失う可能性があります。「決裁者を知るために担当者と商談をする」のではなく、「担当者とのやりとりの中で決裁者を探る」という姿勢を忘れないようにしてください。
商談中に決裁者を探る際のトーク例
商談中のやりとりで決裁者や決裁の流れを把握する必要があるとお伝えしましたが、商談の担当者に直接決裁者を尋ねることは失礼にあたるため、自然な会話の流れの中で決裁者を見極めることが求められます。
慣れるまでは、この流れを読むのが難しく、決裁者を探ることに苦労することもあるでしょう。ここからは、具体的に使いやすい決裁者を探るためのトーク例を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
初めての商談の場合のトーク例
初めての商談では決裁者が見えにくいため、「決裁の流れを把握したい」というトークから決裁者を探ります。提案が受け入れられた場合の流れを知りたいというのは、営業担当として自然なことですので、失礼になりません。
【トーク例1】
自分:「この後は、どのようなプロセスで進めていかれますか?」
担当者:「そうですね、上の者に承認を得てから営業部長への決裁を仰ぎます。」
この流れであれば、決裁までに担当者、上司、営業部長という3段階を踏む必要があることが分かります。
【トーク例2】
自分:「今回の提案のようなサービスの導入は、どのような流れで決定されるのですか?」
担当者:「そうですね、部署のトップが可否を決定します。」
この流れでは、部署のトップが決裁者だと分かります。
【トーク例3】
自分:「自社の〇〇をご検討いただける場合は、採用までにどのような流れがあるのでしょうか?」
担当者:「私が決定権を持っていますね。」
こちらは理想的なケースであり、担当者と決裁者が同じであることが分かります。
上記の流れに違和感がある場合には、「弊社の場合は、こうした案件の決裁は〜〜〜なんですが」と自社の例を話して相手からのトークを促すのも良いでしょう。
今までに何度も取引のある企業との商談でのトーク例
過去に何度も取引実績がある相手でも、同じ決裁ルートを辿るとは限らないため、必ず確認が必要です。金額によって決裁者が変わる可能性があるためです。
【トーク例1】
自分:「以前は〇〇課長が決裁いただいたようなのですが、今回も同じ流れになりますか?」
担当者:「いえ、今回は金額が以前より高額になるため、稟議書を作成して取締役に決裁を仰ぐ必要がありますね。」
この流れでは、今までの取引とは決裁ルートが変わることが分かります。
【トーク例2】
自分:「こちらの決裁の流れは前回と同じように、〇〇様が最終決定をされるということで良いでしょうか?」
担当者:「そうなります。」
この流れでは、前回の取引と同じ決裁者が決裁権を持っていることが分かります。
取引の経験がある企業であっても、前回と同じであると思い込まず、必ず決裁者と決裁ルートを確認するようにしてください。思い込みによって商談を進めてしまうと、思わぬ問題が発生する恐れがあります。
決裁者不在の場合の対応
資料を準備して上申しやすくする
決裁者が不在の場合、担当者に資料を提出して決裁者に上申してもらう必要があります。この際、決裁者が理解しやすいように資料を分かりやすく作成することが重要です。
- 資料の内容を簡潔にする: 決裁者は多くの資料に目を通す必要があるため、簡潔な資料を作成しましょう。要点だけをまとめ、分かりやすい言葉で説明することが大切です。
- 資料のデザインを工夫する: 見やすく、分かりやすい資料デザインにすることで、決裁者の理解度を高めることができます。図表やグラフなどを効果的に活用しましょう。
- 資料の構成を分かりやすくする: 資料の構成を工夫し、決裁者がスムーズに内容を理解できるようにしましょう。目次や見出しを適切に設定することがポイントです。
- 資料に質問事項を記載する: 資料に質問事項を記載することで、決裁者が疑問点を解消しやすくなります。
決裁者にメリットを伝える提案を行う
決裁者は、自社の利益や成長に貢献する提案を求めています。そのため、決裁者にメリットを伝える提案を行うことが重要です。
- 決裁者の課題解決に貢献できる提案を行う: 決裁者の課題を理解し、その解決に貢献できる提案を行いましょう。
- 具体的な数値データで効果を示す: 提案の効果を具体的に示すことで、決裁者の納得感を高めることができます。数値データや事例を活用しましょう。
- 決裁者の立場に立った提案を行う: 決裁者の立場に立ち、提案内容を検討しましょう。決裁者がどのようなメリットを感じるかを意識することが重要です。
担当者との連携を強化する
決裁者が不在の場合、担当者との連携を強化することで、商談をスムーズに進めることができます。
- 担当者とのコミュニケーションを密にする: 定期的に担当者と連絡を取り、進捗状況や課題を共有しましょう。
- 担当者の意見を尊重する: 担当者の意見を尊重し、積極的に意見交換を行いましょう。
- 担当者のサポート体制を構築する: 担当者がスムーズに業務を進められるよう、サポート体制を構築しましょう。
まとめ
商談を成功させるためには、決裁者を把握することが重要であり、そのためには商談中のトークや商談前の事前準備が欠かせません。
自然な流れで決裁者を探ることは一見難しいように思えますが、商談相手は今までに同様の質問を何度も受けていることが多く、予想以上にスムーズに決裁ルートを聞き出せるでしょう。
また、一度得た顧客情報を正しく管理するためには、営業ツールを活用すると良いでしょう。営業ツールの導入によって営業活動を効率化し、より多くの成約を獲得しましょう。