SaaS向けオンボーディングの成功事例:ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの3つに分けて紹介

SaaSビジネスにおいて最も重要なプロセスのひとつが「オンボーディング」です。オンボーディングとは、顧客に対する商品・サービスの導入支援を指し、近年、これを重要視する企業が増加しています。

本記事では、各タッチモデルにおけるSaaS向けオンボーディングの成功事例をご紹介します。

目次

ハイタッチのオンボーディングの成功事例

ハイタッチは、専任担当者がマンツーマンでフォローを提供したり、定例MTGを開催したりするなど個々にカスタマイズした支援を行います。

アップセル・クロスセルを提案できる関係性を築くことで、自社の収益に多大な影響を及ぼす層です。そのため、多くの企業は相応のコストをかけて手厚いサポートを行います。

以下では、ハイタッチのオンボーディング成功事例を3社分紹介します。

ベルフェイス|カスタマーサクセスの仕組み化で手厚いタッチを実現

営業特化のオンライン商談システムを提供するベルフェイス株式会社は、カスタマーサクセスを事業の中心に置いている企業です。ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ・オンボーディングそれぞれのチームで役割を分担し、全顧客に対しサポートを実践しています。

オンボーディングで行う代表的な支援は以下のとおりです。

  • ノウハウ解説
  • 活用シーン・目標の設定
  • 連携システムの決定
  • スケジュール調整・ToDo整理

ヘルススコアの合計値で顧客を4階層に分け、スコアが下がってきたユーザーに対して行う「アクションフロー」を設計しています。一連の流れを仕組み化することで、全顧客へクオリティの高いサポートを実現しました。

さらに、各タッチで得られた顧客の声は、CRMに記録したうえでプロダクト企画事業部と共有します。「顧客対応」と「製品開発」双方のサポート強化により、アップセル・クロスセルの提案に役立てていることも特徴です。

(参照 ITreview「顧客の状況に合わせて適切なタッチ、ベルフェイスに見るカスタマーサクセスの仕組み化」

セールフォース・ジャパン|迅速な成功を実現するプロフェッショナルサービス

株式会社セールフォース・ドットコムは、CRM(顧客管理システム)を提供する米国企業です。

ハイタッチ層への支援を「プロフェッショナルサービス」として提供し、導入から運用開始までの時間を35%短縮することに成功しました。

さらに、変革ビジョンや戦略的な計画ロードマップの策定など、顧客企業のビジネス成功率を高める取り組みに注力しています。導入から活用までの流れを一気通貫で支援することで、顧客企業のパートナーとしてビジネス変革をサポートしています。

(参照 Salesforce「Salesforceのプロフェッショナルサービスで価値を生み出すまでの時間を短縮。」

Adobe|顧客のパートナー企業として共に歩むCS本部

数々のクリエイティブツールをリリースしているAdobeは、デジタルマーケティング領域をカバーするクラウドサービス「Adobe Experience Cloud」を提供しています。このサービスの顧客サポートを担うのが、社内のカスタマーサクセス本部です。

Adobe Experience Cloudは扱うツールの種類が多く、それぞれが多機能であるがゆえに導入のハードルがやや高いとされています。

そこで、ハイタッチ層に対し技術面・ビジネス面など多方面からユーザーを支援する「プレミアサポート」を提供しています。顧客の成功を定義する具体的なKPIを設定し、ロードマップを描くなど「視座の高い」サポートを行い、顧客の目標達成を実現しています。

(参照 AdobeBlog「お客様に寄り添う。アドビがめざすカスタマーサクセス。」

ロータッチのオンボーディングの成功事例

続いて、ロータッチのオンボーディング成功事例を3社分紹介します。

ロータッチは、個別ではなく1対多数の集団的な対応を行うため、セミナーやワークショップなどの開催がメインアプローチになります。

メールやWebコンテンツも活用しながら、効率的な対応を実現した事例を以下で解説します。

freee|顧客に本質的な価値を提供するカスタマーサクセス

クラウド会計ソフトを提供するfreeeは、サービスリリース当初から継続してカスタマーサクセスに取り組んでいます。ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチをそれぞれ異なる事業部で担当し「人×デジタル」によるサポートを展開している点が特徴です。

ヘルススコアや満足度データ、売上継続率など複数のKPIを追うなかで、数値が低いユーザーには複数回のオンボーディング講習を実施しています。効率化を目指し「仕組み化」は行いつつも、カスタマーサクセス担当者の個性を生かし「顧客をファン化させる」取り組みも忘れません。

顧客と深い関係を築き、導入からアップセル・クロスセルの提案まで一貫したサポートを提供している点が、freeeのオンボーディング成功の秘訣です。

(参照 ITreview「経理に携わる全ての人たちを、経営の“主役”に――freeeが挑む、もう1つのカスタマーサクセス」

SmartHR|継続率99.5%を実現した包括的なカスタマーサクセス

クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を提供するSmartHRは、継続利用率99.5%という驚異の数字をたたき出しています。その理由は、支援内容に応じたカスタマーサクセスチームが、それぞれに最適なサポートを提供することに注力しているからです。

SmartHRがオンボーディングにおいて提供しているサポートは以下のとおりです。

  • キックオフMTG
  • 設定や使い方のトレーニング
  • 進捗確認
  • 問題点のヒアリング・解決策の提示

約10年に渡って試行錯誤を続け、体制変化を経て現在の包括的なカスタマーサクセスを実現しています。

(参照 MarkeZine「継続率99.5%を誇るSmartHRのカスタマーサクセスチームが、顧客のために“あえてやらない”こと」

マルケト|カスタマーエンゲージメントによる永続的な成功支援

株式会社マルケトは、MA(マーケティングオートメーション)を提供するSaaS企業です。マルケトでは、カスタマーサクセスを「カスタマーエンゲージメント」と呼称し、一過性の成功ではなく「永続的に」顧客の成功を支援する取り組みに注力しています。

マルケトのカスタマーサクセスにおける大きな特徴は、熱量のあるユーザーコミュニティです。評判が評判を呼ぶユーザーコミュニティは大きな広がりを見せ、現在は顧客同士が「マルケトの使い方」や「成果につながる活用法」を共有し合う場として活用されています。

「顧客のビジネスをサポートしたい」というマルケトの熱意がユーザーコミュニティを活性化させ、結果として効率的なオンボーディングを実現した事例です。

(参照 ITreview「カスタマーサクセスでなく“カスタマーエンゲージメント”。 マルケトの顧客との向き合い方と、人気のユーザーコミュニティーとは」

テックタッチのオンボーディングの成功事例

次に、テックタッチのオンボーディング成功事例を3社分紹介します。

テックタッチとは、テクノロジーを活用して大多数のユーザーへ画一的なサポートを提供する手法です。顧客数が最も多い層であるため、テックタッチの精度がカスタマーサクセスの成否を左右します。

クラウドサーカス|人的フォローなしで初期設定完了率を大幅に向上

クラウドサーカスは、ブラウザARを簡単に作成できるSaaS「LESSAR」を提供する企業です。LESSARの有料プランは専任のカスタマーサクセス担当者が初期設定を支援する一方、無料プランは顧客が自力で初期設定を行わなければなりませんでした。

無料プランの初期設定完了率が良くない課題を解決すべく導入された「チュートリアル」は、機能に応じて6種類が用意され、1500以上の顧客を支援するテックタッチとして機能しています。

テックタッチのオンボーディングにより、人的フォローを一切することなく初期設定完了率を14%向上させることに成功した事例です。

(参照 CloudCIRCUS「チュートリアル起動ユーザーの初期設定完了率は驚異の95%!アクティブ率も140%に!/LESSAR」

Canva|多様なコンテンツでスムーズな課題解決を実現

グラフィックデザインツール「Canva」は、ユーザーが自力でサービスを使いこなせるような工夫が随所になされたWebサイトが特徴です。

会員登録後に利用目的に応じた案内が自動で表示されたり、多様なデザイン方法を学べる「デザインスクール」が実装されたりと、セルフオンボーディングが仕組み化されています。ブログなどのコンテンツが、アップセル・クロスセルの提案まで担っている点も特徴です。

顧客は必要な情報を探す手間なくスムーズに課題を解決でき、企業側は費やす人的リソースを最小限に抑えることができるWin-Winなカスタマーサクセスを実現しています。

成功事例から見えてくるオンボーディングを成功させるポイント

ここまで紹介した事例から見えてくる、オンボーディング成功の秘訣を以下にまとめます。

ポイント1: 顧客の「声なき声」を理解する

オンボーディングを成功に導く企業に共通している特徴は、「顧客の潜在的なニーズまで徹底的に理解する」という点です。

企業側が考える「価値あるサポート」と、顧客が本当に求めているサポートにズレが生じるケースは少なくありません。特に、顧客の離脱が発生しやすい導入期において、顧客ニーズにマッチしない施策は解約率を高める要因となります。

オンボーディングを成功させるためには、顧客の声をさまざまな視点から収集し、顕在化していないニーズまで徹底的に深堀りしてリサーチすることが大切です。

ポイント2: 長期的な視点で顧客の成功を考える

オンボーディングを成功させるためには、顧客を継続的にサポートする姿勢が求められます。

ユーザーは段階的に進むため、導入期からのステップアップを支援するためには、その後の活用期に発生するであろう悩みを先読みしたサポートが必要です。オンボーディング期とサクセス期の担当者が異なる場合は、双方の情報を共有できる環境を構築しましょう。

その時々の単発的な悩みを解決するだけでなく、顧客の成功実現までの道のりを一気通貫でサポートできる体制を整えることが大切です。

ポイント3: タッチモデルを組み合わせて包括的なサポートを実現する

オンボーディングに成功している企業は、複数のタッチモデルを組み合わせてサポートを提供している事例が目立ちます。
離脱が最も発生しやすいオンボーディング期において、提供するサービス内容によってはテックタッチのみでは不十分な場合もあるためです。

しかし、顧客数が多いSaaS企業にとって、すべてのユーザーに充実したサポートを提供することは困難です。
柔軟な対応を実現するためには、ヘルススコアやVOC(Voice of Customer)を分析し、優先順位を明確化することが重要です。

まとめ

SaaSの普及に伴い、企業はより多くの機能を実装したサービスを提供し、他社との差別化を図っています。ユーザーにとっては、より良いサービスを享受できる一方で、複雑化した操作や設定により利用のハードルが高くなっていることも否めません。

オンボーディングは、ユーザーの挫折を防ぎ、継続率を高めるために必要不可欠な取り組みです。カスタマーサクセスを成功に導くために、今回紹介した事例をもとに、自社サービスの改善策を検討してみてください。

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