「上司から『カスタマージャーニーマップを作ってCXを改善しろ』と言われたけれど、何から手をつければいいか分からない……」
「顧客との接点が多すぎて整理しきれないし、作ったとしても現場の改善にどう活かせばいいの?」
日々の業務に追われる中で、こうした「マップ作り」のタスクに頭を抱えているCS担当者の方は多いのではないでしょうか。
よくある失敗は、会議室できれいに整った「おしゃれな図解」を作ることが目的になってしまうことです。しかし、私たちCS現場で本当に必要なのは、デザインの美しさではありません。
お客様がどこでつまずき、どこで迷い、どこで心を痛めたかを知るための、言わば「泥臭い地図」です。
この記事では、CS担当者だからこそ見える詳細な「タッチポイント(顧客接点)」の洗い出し方と、それを現場の課題発見・改善アクションにつなげるための実践的なジャーニーマップの作り方を解説します。
タッチポイント(顧客接点)とは?CSが見落としがちなポイント
オンラインからオフラインまで「接点一覧」を作る
まずは、地図を描くための材料となる「点」を集めましょう。
タッチポイント(顧客接点)とは、Webサイト、広告、店舗、商品パッケージ、問い合わせ対応、利用中のアプリ画面など、顧客と企業が関わるすべてのポイントのことを指します。
「製品を使う」「電話する」といった大きな行動だけでなく、目に見えるもの、耳で聞くもの、触れるもの全てが接点です。
まずはブレインストーミングのつもりで、思いつく限り書き出してみましょう。
- 認知・検討段階:Web広告、SNSの投稿、公式サイトのLP、比較サイトの口コミ
- 購入・契約段階:申し込みフォーム、確認メール、クレジットカードの決済画面
- 利用段階:商品の開封(パッケージ)、取扱説明書、アプリのホーム画面、プッシュ通知
- サポート段階:FAQサイト、チャットボット、電話の自動音声(IVR)、オペレーターとの会話
このように、オンライン(デジタル)とオフライン(リアル)の垣根を超えて一覧化することがスタートラインです。
CS担当者だから気づける「隠れた接点」
マーケティング部門が作るカスタマージャーニーマップと、私たちCSが作るマップで大きく異なるのが、この「隠れた接点」の深掘りです。
マーケティング視点では「購入」や「登録」といったポジティブな接点が注目されがちですが、CS視点では「お客様がネガティブな体験をする瞬間」こそを見逃してはいけません。
例えば、以下のようなポイントも立派な(そして重要な)タッチポイントです。
- パスワードを間違えた時に出る赤文字の「エラーメッセージ画面」
- 配送が遅れた際に届く「お詫びメール」
- FAQで検索した結果、「該当なし」と表示される画面
- 電話窓口の「只今大変混み合っております」というアナウンス
現場目線でさらに踏み込むなら、「問い合わせフォームへのリンクが見つけにくい(リンクを探している時間)」こと自体も、お客様にとっては企業に対する不信感が募る強烈な「マイナスの接点」です。また、「何度かけても繋がらない電話」も、繋がってはいないものの、お客様の時間と感情を消費させている一つの接点としてカウントする。
こうした「うまくいっていない瞬間」をどれだけ洗い出せるかが、実用的なマップになるかどうかの分かれ道です。
カスタマージャーニーマップ作成のステップ【CS現場編】
ステップ1:顧客行動の「プロセス」を可視化する
タッチポイントが出揃ったら、それを時系列に並べて地図にしていきます。
カスタマージャーニーマップとは
顧客が商品を知り、購入・利用して離脱するまでの「一連のプロセス」を可視化した図のことです。各接点での行動や思考、感情の動きを時系列で並べることで、顧客視点での課題や改善策を見つけやすくします。
CS現場で活用する場合、きれいな一本道を作る必要はありません。特に「トラブル発生時」のルートを重点的に描いてみましょう。
- 通常利用:アプリを使っている
- トラブル発生:エラーが出て動かなくなる(不安)
- 解決策の模索:公式サイトでヘルプを探すが見つからない(イライラ)
- 問い合わせ:電話をかけるが繋がらない(怒り)
- 対応:やっと繋がり、オペレーターが対応する(少し安心)
- 解決:元通り使えるようになる(信頼回復、または不満が残る)
このように、「行動のプロセス」を左から右へ矢印でつなぎ、その下に該当するタッチポイント(エラー画面、FAQ、電話など)を配置していきます。これを「プロセスの可視化」と呼びます。
ステップ2:「感情曲線」で顧客の心の動きを描く
行動フローができたら、その時のお客様の「心の動き」を重ね合わせます。これを「感情曲線」と呼びます。
縦軸を感情のポジティブ・ネガティブ(満足・不満)、横軸を時間経過とし、線グラフのように描いていきます。
- 購入時は「期待」でグラフが高い位置にある。
- トラブル発生で「不安」になり、グラフが下がる。
- FAQが見つからず「イライラ」して、さらにグラフが急降下する(ここが「谷」になる)。
- オペレーターの親切な対応で「安心」し、グラフが持ち直す。
この曲線を描くことで、「どこで一番お客様のテンションが下がっているのか(最大の課題)」が一目瞭然になります。CSのミッションは、この深く落ち込んだ「谷」を浅くする、あるいは素早くリカバリーして「山」に戻すための手立てを考えることです。
接点の洗い出しから「課題の発見」につなげるコツ
部署間の「隙間」にある課題を見つける
カスタマージャーニーマップを作ると、複数の部署にまたがる接点が見えてきます。実は、CX(顧客体験)を損なう原因の多くは、この部署と部署の「隙間」に潜んでいます。
例えば、「購入完了メール(システム送信)」までは丁寧な口調だったのに、「配送遅延メール(物流部門)」は事務的で冷たく、その後の「問い合わせ対応(CS)」では状況が共有されておらずお客様に説明を求めてしまった……といったケースです。
それぞれの部署は自部門の業務を全うしているつもりでも、お客様から見れば「一貫性がない」「連携が取れていない」と感じられ、不満の種になります。
マップ上で担当部署が変わるポイントを見つけたら、情報の連携ミスやトーンの違いがないかを確認しましょう。この時、他部署を批判するのではなく、「お客様視点での一貫性を持たせるために連携したい」というスタンスで働きかけることが、改善をスムーズに進めるコツです。
問い合わせログとマップを突き合わせる
CS現場ならではの最も効果的な課題発見法は、作成したマップと実際の「問い合わせログ(VOC)」を突き合わせることです。
「マップ上では、FAQを見ればすぐに解決できるルートになっている(感情は下がらない想定)。しかし、現実のログを見ると、この段階での『使い方が分からない』という問い合わせが急増している」
このような「想定と現実のギャップ」が見つかったら、そこには必ず運営側が気づいていない「見えない壁」が存在しています。「FAQの言葉がお客さまの検索語句とズレているのではないか?」「案内ボタンのデザインが風景に溶け込んでしまっているのではないか?」といった仮説が立ちます。
「スムーズに行くはずの場所で、なぜか問い合わせが来ている」。この違和感こそが、マップと現場データを照らし合わせることで得られる最大の発見です。
作ったマップを「絵に描いた餅」にしない運用ルール
完璧を目指さず、付箋で運用し続ける
最後に、作ったマップを形骸化させないための運用ルールについてお伝えします。
最も重要なのは、「最初から完璧なデジタルデータで作ろうとしないこと」です。きれいに製本してしまうと、修正するのが億劫になり、次第に見られなくなってしまいます。
おすすめは、模造紙やホワイトボードに、色の違う「付箋」を使って作成・更新することです。
「行動」は青、「接点」は黄色、「課題」は赤、といった具合に色分けし、気づいたことがあればすぐに貼り替えたり追加したりできる状態にしておきましょう。
そして、月に一度などのチームミーティングで、「今月急増した問い合わせ」をマップ上にプロットし直す時間を設けてみてください。「最近、ここの接点で新しいエラー(赤い付箋)が増えているね」「FAQを修正したから、ここのイライラ(感情曲線の谷)は少し浅くなったはず」と議論するのです。
サービスやお客様の状況は常に変化します。マップも一度作って終わりではなく、生き物のように更新し続けること。それができるのは、日々お客様の最前線にいる私たちCS現場だけなのです。
まとめ
タッチポイントの整理は、お客様がどこでつまずいているかを知るための第一歩です。
カスタマージャーニーマップは「立派な資料を作ること」がゴールではありません。それを使って「課題を発見し続け、具体的なアクション(FAQ修正や導線改善)に落とし込むこと」にこそ価値があります。
まずは、現在一番多い問い合わせについて、「お客様はこの問い合わせをする直前に、どんな画面を見て、どんな気持ちだったんだろう?」と想像してみてください。
「エラー画面が不親切だったのかな?」「説明書が見つからなかったのかな?」
その想像こそが、あなただけのカスタマージャーニーマップ作りのスタート地点です。