「毎月のシフト作成に膨大な時間がかかり、まるで終わりのないパズルをしている気分になる」「ピークタイムに限って人が足りず、目の前で放棄呼(電話の取りこぼし)が増えていくのを見るのが辛い」「急な欠勤連絡が入ると、現場が回らなくなるのではないかといつも怯えている」
コールセンターのSVやマネージャーにとって、スタッフの希望休を叶えつつ、予算内で必要な人数を確保する調整作業は、最も精神を削る業務の一つではないでしょうか。「希望を通せば人が足りず、人数を確保すれば人件費が超過する……」このジレンマに対し、気合と根性だけで乗り切るスタッフィングには限界があります。
本記事では、WFM(要員管理)の基本となる「必要人数の算出ロジック」と、システムの機能を活用した「スキルベースルーティング」を学び、欠勤や入電の波に強い、柔軟で効率的なシフト作成術を解説します。
シフト作成の基礎:WFM(要員管理)の考え方
感覚値ではなく「コール予測」から必要人数を逆算する
シフト作成において最も避けるべきなのは、「なんとなく忙しそうだから多めに人を入れよう」や「予算が厳しいから一律で減らそう」といった感覚的な判断です。コールセンター運営には、「WFM」という科学的なアプローチが不可欠です。
WFM(Workforce Management)とは?
ワークフォース・マネジメントの略。「必要な時に、必要なスキルを持つ人材を、適切な人数配置すること」を目指す管理手法。過去の入電データに基づき、将来の業務量を予測して要員計画を立てる。
まずは、去年の同月や前週のデータ(過去実績)を引っ張り出し、曜日別・時間帯ごとの入電数(コール数)の傾向を把握することから始めましょう。「月曜の午前中は電話が集中する」「水曜の午後は比較的落ち着いている」といった波を可視化し、そこから「この時間帯には何件の受電が必要か」を予測します。
そして、1件あたりの平均処理時間(AHT)を掛け合わせることで、初めて「その時間に最低限必要な人数」が理論値として算出されます。このロジックに基づいた数字があってこそ、経営層に対して「なぜこの日に増員が必要なのか」を説得力を持って説明できるようになります。
現場を崩壊させる「欠勤率」のリスクヘッジ
計算上で「必要人数ギリギリ」のシフトを組んでしまうと、当日の突発的な欠勤やトラブルで現場は容易に崩壊します。シフト表上の人数と、実際に電話を取れる人数はイコールではありません。ここで重要になるのが「シュリンケージ」の計算です。
シュリンケージ(縮小)とは?
シフト上の勤務時間のうち、有給休暇、欠勤、遅刻、研修、ミーティング、小休憩などにより、実際にオペレーターが電話対応業務を行えない時間の割合。
例えば、10人のスタッフがいても、1人が欠勤し、1人が研修を受けていれば、稼働率は80%に下がります。一般的なコールセンターでは、このシュリンケージをあらかじめ20〜30%程度見込んでおく必要があります。つまり、計算上で10人必要なら、実際には12〜13人を配置しておくのが安全圏ということです。
特に冬場のインフルエンザ流行期など、欠勤リスクが高まる時期には、このバッファ(余裕率)を厚めに設定するなど、リスクを先読みした配置を行うことが、安定稼働を守るための鉄則です。
ピークタイムを制する効率的なスタッフィング
固定シフトから「シフトパターン」の多様化へ
多くのセンターで採用されている「9時-18時」や「10時-19時」といったフルタイム勤務だけの固定シフトでは、どうしても「人の山」と「入電の山」にズレが生じます。入電が少ない時間帯に人が余り、ピーク時に足りないという非効率が発生するのです。これを解消するためには、「シフトパターン」の多様化が有効です。
シフトパターンとは?
早番、遅番、短時間勤務、中抜け勤務など、勤務開始時間や終了時間、労働時間の長さを組み合わせた多様な勤務形態のこと。
例えば、入電が集中する午前中だけをカバーする「早番ショート(9時-13時)」や、夕方のラッシュに対応する「遅番(17時-21時)」などを組み合わせることで、入電の波に合わせて人員の厚みを変えることができます。これは働く側にとってもメリットがあります。「子供が帰ってくるまで働きたい」という主婦層や、「学校終わりの夕方だけ稼ぎたい」という学生など、多様なライフスタイルを持つ人材を採用しやすくなるからです。
「人を増やす」のは予算的に難しくても、「時間をずらす」ことで解決できる課題は多くあります。スタッフの要望とセンターの繁忙時間がピタリとハマる組み合わせを見つけることこそ、シフト作成の醍醐味と言えるでしょう。
ランチタイム難民を出さない「休憩時間の調整」術
コールセンターにおける魔の時間帯、それは「12時〜13時」です。一般企業の昼休みに合わせて入電が増える傾向がある一方で、センター内のオペレーターも一斉に休憩に入ってしまうと、応答率は壊滅的に低下します。この「ランチタイムの応答率低下」を防ぐためには、休憩取得のルールを細分化する工夫が必要です。
具体的には、全員が12時に休憩に入るのではなく、「11:30〜」「11:45〜」「12:00〜」といったように、15分刻みで休憩開始時間をずらす「スタッガー(時差休憩)」を導入します。これにより、一斉に席を立つ人数を分散させ、常に一定数のオペレーターが着台している状態を作ります。また、あえて「ランチタイム専任(11時〜14時勤務など)」の短時間スタッフを採用するのも一つの手です。
休憩回しのパズルに頭を悩ませるよりも、制度として「穴が開かない仕組み」を作ってしまう方が、管理工数は大幅に削減されます。
IT活用で負担を減らす:スキルベースルーティング
ベテランと新人をシステムで仕分ける技術
効率的な要員配置は、シフト表の上だけで完結するものではありません。実際の稼働中に、電話交換機(PBX)の機能を活用して負荷を調整することも重要です。その代表的な機能が「スキルベースルーティング」です。
スキルベースルーティングとは?
オペレーターのスキルレベル(経験値や対応可能分野)をシステムに登録し、かかってきた電話の内容や難易度に合わせて、最適なオペレーターに優先的に着信を振り分ける機能。ACD(着信自動分配装置)の機能の一つ。
すべての着信を全員に均等に振るのではなく、新人には「住所変更などの定型的な問い合わせ」を優先的に着信させ、ベテランには「クレームや複雑な技術サポート」を回すといった設定が可能です。これにより、新人が難易度の高い電話を取ってしまい、保留が長引いたり、エスカレーション(管理者への交代)でSVの手を取られたりする事態を防げます。
適材適所の振り分けを自動化することで、同じ人数でもセンター全体の処理能力(スループット)を最大化できるのです。
特定の個人に負荷を集中させない工夫
スキルベースルーティングを活用する際、注意しなければならないのが「エースの疲弊」です。スキルが高い人にばかり難しい電話や多くの着信が集中する設定にしてしまうと、優秀な人ほど負担が重くなり、結果として離職につながってしまいます。「あの人は仕事が速いから」と頼りすぎるのは危険です。
これを防ぐためには着信ルールを併用し、特定の個人に負荷が偏らないようにバランスを取る必要があります。また、ベテランであっても「今日は新人フォローに回るため着信頻度を下げる」といった調整をシステム側で行うことも可能です。
システム設定で「仕事の重さ」を公平に分散させ、優秀な人材を守ることも、シフト管理と同様に重要なマネジメント業務の一部です。
現場の納得感を高める運用ルール作り
公平性の担保と「希望休」のルール化
どんなに効率的なシフトを作成しても、そこで働くスタッフに不満が溜まってしまっては元も子もありません。特に「希望休」の扱いはデリケートな問題です。「あの人ばかり週末休んでいる」「自分ばかり遅番を入れられる」といった不公平感は、チームの士気を下げ、離職の引き金になります。
全員が納得できる運用を行うためには、透明性の高いルール作りが不可欠です。「週末はローテーションで月に〇回は出勤する」「希望休の提出は月3回まで確約し、それ以上は抽選、または前月の取得状況を考慮する」といった明確な基準を設けましょう。
この際、独身者や若手社員だけに皺寄せがいかないよう配慮することも重要です。家庭の事情は尊重しつつも、特定の人に負担が偏らないよう、「全員で少しずつ負担を分け合う」という文化をルールとして明文化することで、現場の納得感を高めることができます。
まとめ
シフト作成は単なる穴埋めパズルではなく、過去のデータに基づいた「科学」です。感覚値に頼るのではなく、コール予測から必要人数を算出し、欠勤率(シュリンケージ)を見込んだバッファを持たせることで、突発的な事態にも動じない強い現場を作ることができます。また、多様なシフトパターンの導入やスキルベースルーティングの活用により、限られたリソースを最大効率で運用することが、長期的な安定稼働への近道となります。
まずは、過去3ヶ月分の「曜日別・時間帯別の入電数グラフ」を作成することから始めてみてください。その「入電の山」の形と、現在の「シフト人数の山」の形を重ね合わせた時、必ず改善すべき隙間や、過剰になっている部分が見えてくるはずです。
そのズレを一つずつ調整していく作業こそが、現場と経営の両方を救う第一歩となります。