「『合理的配慮』の義務化と言われても、CS現場で具体的に何を変えればいいのかわからない」「電話リレーサービス経由の電話がかかってきたらどう対応すべき?」「Webアクセシビリティ対応なんて技術的なことは難しそう」
日々のお客様対応の中で、このようなお悩みをお持ちではありませんか? 法律の話や専門用語を聞くと、どうしても「難しそう」「対応コストがかかりそう」と身構えてしまいますよね。でも、必要以上に難しく考える必要はありません。大切なのは、法的な義務を果たすこと以前に、「お客様がコンタクトを取りやすい選択肢」をきちんと用意できているか、という視点です。
この記事では、現場がパニックにならずに対応するための「電話リレーサービスの基礎知識」から、FAQや問い合わせフォームで今日からできる「アクセシビリティ改善」のポイントを解説します。お客様にとっても、現場にとっても優しい環境づくりを一緒に考えていきましょう。
CSにおける「合理的配慮」とアクセシビリティ対応とは?
法改正で何が変わった?現場が押さえるべきポイント
2024年4月施行の「障害者差別解消法」の改正により、民間事業者による「合理的配慮」の提供が義務化されました。これまでは努力義務でしたが、今後は法的義務として求められることになります。
障害者差別解消法とは?
障害を理由とする差別の解消を推進し、すべての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指す法律のことです。
この法律の理念に基づき、私たちが日々の顧客対応で直接向き合うことになる具体的なアクションが「合理的配慮」となります。
合理的配慮とは?
障害のある方から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思表示があった際、事業者が過重な負担にならない範囲で、必要かつ合理的な対応を行うことです。
お客様からの個別の申し出を起点として対応する「合理的配慮」に対して、より根本的な事前のアプローチとしてCS部門が取り組むべきなのが環境整備です。
ユニバーサルデザインとは?
障害の有無や年齢、性別などにかかわらず、あらかじめ誰でも利用しやすいように施設や製品、情報などの環境を設計・整備しておく考え方のことです。
CSの現場でこの「合理的配慮」の運用ルールを考える際、これを「何か特別な対応をしなければならない」と捉えてしまうと、現場のオペレーターには心理的な負担やプレッシャーがかかってしまいます。そうではなく、「お客様ごとの困りごとに合わせて、コミュニケーションの手段を柔軟に変えること」とシンプルに定義することをおすすめします。
法律を遵守することはもちろん大切ですが、私たちCSの本来の目的はあくまで「お客様の問題解決」です。「法律だからやる」のではなく、「お客様がスムーズにサービスを利用できるようにする」ために、マニュアルや応対フローを見直す。その結果として合理的配慮が達成されている状態が、現場にとって最も健全で持続可能なあり方だと私は考えています。
電話対応の新しい常識「電話リレーサービス」への備え
仕組みを理解しよう|通訳オペレーターが間に入る通話
合理的配慮の一環として、電話対応の現場で理解を深めておきたいのが「電話リレーサービス」です。
電話リレーサービスとは?
聴覚や発話に困難がある人が、手話通訳オペレーターや文字通訳オペレーターを仲介して、24時間365日、電話をかけられる公的なインフラサービスのことです。
仕組みとしては、まず利用者がアプリなどで通訳オペレーターに連絡を入れます。通訳オペレーターはその内容を、手話や文字から「音声」に変換して、企業のコールセンターなどに電話をかけます。逆に、企業側からの音声回答は、通訳オペレーターが手話や文字に変換して利用者に伝えます。つまり、手話・文字通訳という形でお客様と企業の間に「通訳者」が入る三者間通話のようなイメージです。
現場で実際に起こりうる課題として、オペレーターが電話を受けた際、第一声で「こちらは電話リレーサービスです」という通訳者からのアナウンスが入るため、これをセールス電話や自動音声だと勘違いして切電してしまうケースがあります。 これを防ぐためには、「これって電話リレーサービスかも?」と気づくための事前の研修が不可欠です。チーム内で「通訳オペレーターからの冒頭の挨拶や説明を、必ず最後まで聞き逃さない」というルールを作るだけでも、誤って切断するリスクは大きく減らせます。
また、通訳を介して会話を行うため、通常の通話よりもやり取りに時間がかかる傾向があります。もし現場でAHT(平均処理時間)などのKPIを厳しく管理している場合は、電話リレーサービスでの対応時は集計の例外としたり、目標値を調整したりするなど、オペレーターが焦らず安心して対応できるような配慮も忘れないようにしましょう。
「電話以外の選択肢」を作る、問い合わせ導線の設計
チャットやフォームは「聴覚障害者支援」の要
電話リレーサービスも重要ですが、そもそも「電話をかけなくても解決できる」環境を整えることが、アクセシビリティ対応の第一歩です。電話での会話が難しいお客様にとって、テキストベースでやり取りができるチャットボット、メール、問い合わせフォームといったチャネルは、単なる代替手段ではなく、サービスを利用するための命綱となります。
こうした「音声を使わない対応」をノンボイス対応と呼び、電話やメール、チャットなど複数の窓口を用意することをマルチチャネルと呼びます。CSにおいては、多様なお客様が自分に合った連絡手段を選べるように、このマルチチャネル化を進めることが求められています。
ここで重要になるのが、Webサイト上の「問い合わせ導線」の設計です。よくあるのが、電話番号は大きく掲載されているのに、問い合わせフォームへのリンクはページの下部に小さくテキストであるだけ、というケースです。これでは、電話ができないお客様は入り口を見つけるだけで疲弊してしまいます。 「お困りの方はこちら(フォームへ)」といったボタン一つでも、背景色とのコントラストをはっきりさせたり、クリックしやすい大きさにしたりするだけで、見やすさ(視認性)と使いやすさは劇的に変わります。
また、もしリソースが許すのであれば、有人対応のチャット導入は非常に有効です。リアルタイムでやり取りができる有人チャットは、電話と同じような即時性を持ちながら、テキストで完結できるため、聴覚障害のある方にとって非常に親和性の高いツールです。実際に導入した現場では、電話対応の件数が減り、結果として電話の待ち時間短縮にもつながったという事例も多くあります。「電話の代わり」として機能する強力なチャネルを育てる視点を持ちましょう。
FAQも「Webアクセシビリティ」を意識して見やすく改善
音声読み上げや色覚多様性に配慮した記事作り
自己解決を促すFAQ(よくある質問)ページも、すべてのお客様が等しく情報を得られるように作成する必要があります。ここでキーワードとなるのがWebアクセシビリティです。これは、高齢者や障害者を含む誰もが、Webサイト上の情報や機能を利用できる状態にあることを指します。
具体的にFAQ記事を作成する際、特に意識したいのが視覚障害のある方への配慮です。視覚に障害のある方は、画面上の文字を音声で読み上げるスクリーンリーダーというソフトを使ってWebサイトを閲覧していることが多いです。 しかし、操作手順を「画像(スクリーンショット)」だけで説明し、テキストでの補足がない記事だと、スクリーンリーダーは「画像がある」ことしか認識できず、肝心の内容を読み上げることができません。
これを解決するために、画像には必ずAlt属性(代替テキスト)を設定しましょう。Alt属性とは、画像が表示されなかったり見えなかったりする場合に、代わりに表示(または読み上げ)されるテキスト情報のことです。ここに「設定画面の右上の『保存』ボタンをクリックする様子」といった具体的な説明を入れておきます。
現場での運用としては、「画像だけで手順を説明して終わりにしない」というルールを徹底することが重要です。画像の下に、必ず同じ内容をテキストでも手順として記述するようにしましょう。実はこれ、アクセシビリティ対応だけでなく、検索エンジンのクローラー(巡回ロボット)対策、つまりSEOの観点からも非常に有効です。 また、専門用語を多用せず「やさしい日本語」で書くことも、アクセシビリティの一つです。誰にでも伝わる言葉選びと、マシンリーダブル(機械が読み取りやすい)な構成は、結果としてすべてのお客様にとって使いやすいFAQにつながります。
まとめ
CSにおけるアクセシビリティ対応や合理的配慮は、高価なツールを導入することだけが正解ではありません。「この書き方で伝わるかな?」「ここにお問い合わせボタンがあったら便利かな?」という担当者の「想像力」と、日々の「運用の工夫」で大きく前進させることができます。
電話リレーサービスの仕組みをチームで共有することや、FAQの画像に一行の説明を加えること。そんな小さな一歩が、これまで声を上げられずに困っていたお客様を救うことにつながります。
まずは、自社のFAQページを、スマホやPCの「音声読み上げ機能」を使って実際に聞いてみることから始めてみませんか?「あれ、ここの説明が飛ばされた」「早口だと聞き取れないな」といった意外な気づきがあるはずです。その気づきこそが、改善への第一歩です。