「チャットツールを導入すれば効率が上がると思ったのに、即レス対応に追われて現場が疲弊している」「お客様から『返信が遅い』とお叱りを受けるが、これ以上人員を増やせない」。 もし、あなたのチームがこのような状況に陥っているなら、それはツールの選び方や運用ルールにボタンの掛け違いがあるのかもしれません。
「チャット」と聞くと、多くの人がLINEのような感覚で「手軽で早いコミュニケーション」をイメージします。しかし、お客様を画面の前に縛り付ける「ライブチャット」と、時間を置いて返すことができる「メッセージング」は、システム的にも顧客体験的にも全くの別物です。この違いを曖昧にしたまま、漠然と「チャット=早い」という認識で運用すると、現場は永遠に鳴り止まない通知音に追われることになります。
この記事では、「同期(ライブチャット、チャット)」と「非同期(メッセージング)」の機能的・体験的な違いを明確にし、自社のリソースと顧客のニーズに合わせた適切な運用スタイルを選択するための判断基準を解説します。
チャットとメッセージングの特長と選び方
ライブチャット(同期型):電話のテキスト版
まず、「ライブチャット」について説明します。これは、オペレーターとお客様が「同時に」オンライン状態で会話する形式を指します。イメージとしては「電話のテキスト版」が最も近いです。
ライブチャット(同期通信)とは?
Webサイト上のチャットウィンドウなどを通じて、リアルタイムにテキストメッセージをやり取りするシステムのことです。チャットとも言われます。双方が同時に接続している必要があり、即時性が求められます。
この形式の最大の特徴は、「今、この瞬間」につながっていることです。お客様がWebサイトを訪問し、問い合わせウィンドウを開いている間に、オペレーターが即座に応答します。会話のテンポが速く、短時間で問題を解決できるメリットがあります。しかし、その反面、「セッション」という概念に縛られます。
セッション維持とは?
Webブラウザとサーバー間の接続が継続している状態のことです。ライブチャットの場合、一定時間操作がなかったり、ブラウザを閉じたりすると接続が切断され、会話履歴がリセットされる(会話が終了する)仕様になっていることが多いです。
つまり、ライブチャットはお客様がブラウザを閉じたり、通信が切れたりすると、そこで対応が強制終了してしまいます。「電話を切る」のと同じ感覚です。そのため、オペレーターは接続が切れる前に問題を解決しなければならないという時間的なプレッシャーと常に隣り合わせになります。
メッセージング(非同期型):メールのチャット版
一方、「メッセージング」は、Facebook MessengerやLINE、あるいはビジネスチャットツールのように、履歴がサーバー上に残り続け、互いの好きなタイミングで返信する形式です。こちらは「メールのチャット版」と捉えると分かりやすいでしょう。
メッセージング(非同期通信)とは?
双方が同時にオンラインである必要がなく、メッセージを送ると履歴として残り、受信側が後から確認・返信できる通信方式のことです。
この形式では、お客様が問い合わせを送った後、ブラウザを閉じても会話は終了しません。オペレーターからの返信があれば、メールやアプリの通知でお知らせが届き、都合の良い時に会話を再開できます。多くのCSツールではこれらが混在しており、機能表を見ただけでは区別がつかないことがあります。しかし、現場視点での最大の違いはシンプルです。それは「オペレーターがトイレに行けるかどうか」です。
ライブチャットの場合、対応中に離席すればお客様を待たせ、セッションが切れてしまうため、トイレに行くタイミングすら見計らう必要があります。
一方、メッセージングであれば、数分〜数時間のタイムラグが許容されるため、隙間時間に対応したり、調査に時間をかけたりすることが可能です。
まずは自社のツールがどちらの仕様か、あるいはどちらの設定で運用しているかを確認することが重要です。
顧客体験(UX)における「拘束時間」の違い
ライブチャットは顧客を画面前に「拘束」する
ツール選びにおいて、運用側の都合だけでなく「顧客体験(UX)」の視点も欠かせません。ライブチャットの即時性は魅力的ですが、それは同時にお客様を画面の前に縛り付けることを意味します。
顧客の拘束時間とは?
問い合わせをしてから解決するまでの間、お客様がその対応のために費やさなければならない時間のことです。特にライブチャットでは、画面を見続けなければならない物理的な拘束が発生します。
「チャットなら早いだろう」と思って問い合わせたお客様に対し、「ただいま混み合っております」と5分も10分も待たせてしまうと、電話の保留音を聞かされ続けるのと同じストレスを与えます。お客様は「いつ繋がるかわからない」不安の中で、他のページに移動することも、ブラウザを閉じることもできずに待ち続けなければなりません。
また、回答中も「少々お待ちください」と言われるたびに、画面の前で待機を強いられます。ライブチャットは「今すぐ解決したい」というニーズには最強のツールですが、オペレーターが即応できない(待ち時間が発生する)体制であれば、かえって顧客満足度を大きく下げる諸刃の剣となるのです。
メッセージングは顧客に「自由」を与える
対して、メッセージングはお客様に「自由」を与えます。問い合わせを送信した後は、ブラウザを閉じて別の作業をしたり、移動したりすることができます。返信が来たら通知が届くので、自分のタイミングで確認すれば良いのです。
現代のお客様は忙しく、常にスマホの画面を注視していられるとは限りません。通勤電車の中で質問を投げ、会社の昼休みに返信を確認するといった「非同期」のコミュニケーションスタイルは、現代のライフスタイルに非常にマッチしています。
ただし、メッセージングにも弱点はあります。それは「いつ返事が来るか分からない」という不安です。「すぐ返ってくると思って待っていたのに、3時間後だった」となればクレームになりかねません。これを防ぐためには、自動応答メッセージで「現在のお返事までの目安時間は〇時間です」と提示するなど、期待値をコントロールする工夫が必要です。
また、クレジットカードの紛失や不正利用など、一刻を争う緊急事態においては、のんびりと待つメッセージングは不向きです。そのようなトラブル対応には電話やライブチャットを用意するなど、問い合わせ内容に応じた使い分けが求められます。
運用スタイルの違いとKPI設定
ライブチャット運用のカギは「WFM(要員管理)」
ライブチャットを導入する場合、運用体制は「電話窓口」と同じ考え方で設計する必要があります。つまり、アクセスが集中する時間帯には必ず人を配置しなければなりません。
WFM(Workforce Management)とは?
過去の問い合わせデータを分析して将来の入電数(チャット数)を予測し、それに応じた適切な人員配置(シフト作成)を行う要員管理の手法です。
お客様が待っているその瞬間に応答しなければならないため、ランチタイムや夕方などのピークタイムにオペレーターが不足すると、即座に「応答率」の低下や「待ち時間」の増加に直結します。そのため、ライブチャット運用では「応答時間(First Response Time)」や「応答率」が最も重要なKPI(重要業績評価指標)となります。
もし、数人の少人数チームでCSを回しており、シフトを組む余裕がないのであれば、ライブチャットの導入は慎重になるべきです。「誰も対応できない時間」が発生するライブチャットは、お客様にとって「繋がらない電話」と同じであり、信頼を損なう原因になるからです。
メッセージング運用のカギは「タスク消化」
一方、メッセージング運用は「メール窓口」に近い考え方で設計できます。リアルタイムでの応答義務がないため、問い合わせが集中したとしても、一旦キュー(待ち行列)に溜めておき、順番に処理していくことが可能です。
ピークタイムを平準化できるため、少人数チームでも回しやすいのがメッセージングの強みです。しかし、油断すると「後で返そう」と放置してしまいがちです。
「チャットを始めたら現場がパンクした」という相談を受けることがありますが、その多くは、少人数チームが「メッセージングツール」を使っているにも関わらず、「ライブチャットのような即レス」を目指してしまっているケースです。非同期ツールを使うなら、「数時間以内に返信します」と宣言して、お客様の期待値をコントロールする勇気も必要です。
無理な即レス競争に参加せず、SLAを守りながら確実にタスクを消化していく運用こそが、持続可能なCS体制を作ります。
解決時間(Resolution Time)とは?
問い合わせを受け付けてから、最終的に問題が解決(クローズ)するまでにかかった時間のことです。メッセージングでは即時応答よりも、最終的な解決スピードが重視されます。
SLA(サービスレベル合意)とは?
サービスの提供者と利用者の間で結ばれる「品質保証の約束」のことです。CSでは「問い合わせから24時間以内に必ず初回返信を行う」といった目標設定として用いられます。
まとめ|
「チャット」という言葉の響きだけでツールを導入してしまうと、現場とお客様の双方に不幸なミスマッチが生まれます。
整理すると、「ライブチャット(同期)」は電話の代わりであり、即時性が高い反面、お客様の拘束時間が発生し、運用側には厳密なシフト管理が求められます。一方、「メッセージング(非同期)」はメールの進化版であり、お客様に時間的自由を与え、運用側も少人数で対応しやすい反面、解決までのリードタイム管理が重要になります。
どちらが良い悪いではなく、自社のリソース(即時対応できる人数がいるか)と、お客様のニーズ(緊急性が高いか)のバランスで決めるべきです。
まずは、現在利用中、または検討中のツールが、ブラウザを閉じると切れる「ライブチャット型」なのか、会話が続く「メッセージング型」なのか、仕様書やヘルプページで確認してみましょう。その仕様を正しく理解することが、現場の疲弊を防ぐ第一歩となります。