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カスタマーハラスメント防止条例とは?企業側の対策と導入事例

ヘルプパーク編集部
カスタマーハラスメント防止条例とは?企業側の対策と導入事例

「条例ができたらしいが、具体的に現場で何を変えればいいのか分からない」「『お客様は神様』という古い慣習と、スタッフを守る義務の板挟みで苦しい」「罰則がないと聞いたが、結局効力はあるのか? 警察を呼ぶ基準は?」

このような不安や疑問を抱えている現場責任者や経営者の方は多いのではないでしょうか。「暴言を吐かれても、お金をいただいている以上は耐えるのが仕事」。そんな悲しい常識を変えるための大きな一歩となるのが、2025年4月に施行された「東京都カスタマーハラスメント防止条例」です。

この条例は単なるルールブックではなく、理不尽な要求と戦う現場の皆さんを守るための「最強の盾」になり得ます。ただし、その盾をどう使いこなすかは、企業の準備次第なのです。

この記事では、条例の基本(禁止行為・罰則の有無)を正しく理解し、企業に課せられた「安全配慮義務」を果たすためのガイドライン作成や、現場での具体的な運用ルールについて解説します。

2025年4月施行「東京都カスタマーハラスメント防止条例」の全貌

条例の目的と「罰則なし」の真意

2025年4月、東京都は全国初となる「カスタマーハラスメント防止条例」を施行しました。この条例の最大のポイントは、これまで曖昧だった「顧客による著しい迷惑行為(カスハラ)」を定義し、いかなる場においても「カスハラを行ってはならない」という禁止規定を設けた点にあります。

ただし、この条例には違反した顧客に対する懲役や罰金といった刑事罰は設けられていません。これを聞くと「結局、罰則がないなら意味がないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、この条例はいわゆる「理念条例」としての側面を強く持っています。

理念条例とは?
特定の行政課題に対し、自治体としての基本的な考え方や方向性、市民や事業者の役割などを定めた条例のことです。直接的な罰則規定を持たない場合が多いですが、「社会全体でこの問題を解決しよう」という合意形成(規範)を作り、問題行動を抑止する効果を狙っています。

罰則がないとはいえ、東京都という巨大な自治体が「カスハラは許されない行為である」と明言したことの社会的意義は絶大です。これにより、企業は顧客に対して「東京都の条例に基づき、そのような行為はお断りします」と毅然と伝えやすくなり、警察や弁護士への相談もしやすくなるという「後ろ盾」を得ることになります。

何が「カスハラ」になるのか? 禁止行為の定義

では、具体的にどのような行為がカスハラにあたるのでしょうか。東京都のガイドラインや厚生労働省のマニュアルに基づき、判断基準を見ていきましょう。

カスハラとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上相当な範囲を超えるもの」と定義されます。少し難しい表現ですが、ポイントは「要求内容の妥当性」と「手段の相当性」の2点です。

要求内容の妥当性とは?
顧客の主張に正当な理由があるかどうかです。例えば「購入した商品が壊れていたので交換してほしい」というのは妥当な要求ですが、「気に入らないから土下座しろ」というのは妥当性を欠いています。

手段の相当性とは?
要求の通し方が社会的な常識の範囲内かどうかです。たとえ商品に不備があったとしても(要求は妥当)、大声で長時間怒鳴り続けたり、SNSで執拗に誹謗中傷したりする行為は「手段として相当ではない」ため、ハラスメントと認定されます。

この2つの軸で判断することで、正当なクレームと悪質なカスハラを明確に区別することができます。

企業に課せられる「義務」と直視すべき被害のリアル

努力義務ではなく「措置義務」? 安全配慮義務との関係

この条例により、企業側の対応はどう変わるのでしょうか。重要なのは、企業には従業員をカスハラから守るための体制整備が求められるということです。これは「できればやったほうがいい」というレベルの話ではありません。企業にはもともと労働契約法上の「安全配慮義務」があります。

安全配慮義務とは?
労働契約法第5条に基づき、使用者が労働者に対し、生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務のことです。

条例の施行により、カスハラ対策を怠って従業員が精神疾患(うつ病など)を発症した場合、企業は「安全配慮義務違反」として損害賠償請求を受けるリスクが格段に高まります。

これは決して大げさな話ではありません。東京商工リサーチの調査によると、直近1年間でカスハラを受けた企業の13.5%で「従業員の休職や退職が発生している」という深刻な実態が明らかになっています。もはやカスハラは「現場の我慢」で済ませられる問題ではなく、人材流出を防ぐための経営課題なのです。

出典:「企業のカスハラ対策に遅れ、未対策が7割超 「カスハラ被害」で従業員の「休職・退職」 13.5%の企業で発生」(株式会社東京商工リサーチ:2024年8月)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198870_1527.html

ここで現場として注意したいのは、相談窓口を作っただけでは不十分だという点です。「何かあったら相談してね」と言うだけでは、義務を果たしたことになりません。

現場のスタッフが求めているのは、「どこからがハラスメントで、いつ電話を切っていいのか」という明確なボーダーライン(判断基準)です。この基準を決め、現場が迷わずに動けるようにすることこそが、企業の果たすべき責任なのです。

他自治体の動きと実在企業の導入事例

東京都の条例化を受け、他の自治体でも独自の対策が加速しています。 例えば、愛知県では2025年10月1日に「愛知県カスタマーハラスメント防止条例」が施行されました。

また、三重県ではさらに踏み込み、悪質な「特定カスハラ」に対する禁止命令違反に50万円以下の罰金などを科す「全国初の罰則付き条例」を2026年度の施行に向けて検討しています。同県桑名市ではすでに市条例が先行施行されており、配送業者に土下座を要求した客をカスハラと認定し、警告書を送付した実例も生まれています。

自治体名施行時期条例名(通称)特徴・罰則の有無など
東京都2025年4月東京都カスタマーハラスメント防止条例【罰則なし】
全国初の広域理念条例。対象を限定せず、都・事業者・顧客の責務を明記。中小企業向けの対策奨励金制度なども整備。
北海道2025年4月北海道カスタマーハラスメント防止条例【罰則なし】
東京・群馬と並び施行。基幹産業である観光業やサービス業の従業員を守ることに重点を置いた理念条例。
群馬県2025年4月群馬県カスタマーハラスメント防止条例【罰則なし】
県・県民・事業者の責務を明記。社会全体でハラスメントを許さない機運を高めることを目的としている。
愛知県2025年10月愛知県カスタマーハラスメント防止条例【罰則なし】
事業者だけでなく、消費者(顧客等)がハラスメントを行わないよう努める責務を条例内で明確に規定。
三重県2026年度(予定)(※名称・詳細検討中)【罰則あり(検討中)】
全国初となる**「罰則付き(50万円以下の罰金など)」**の条例として検討が進行中。極めて強い抑止力が期待されている。
三重県
桑名市
施行済み桑名市カスタマーハラスメント防止条例【罰則なし(警告運用)】
市レベルで先行施行。土下座を強要した客に対し、市として「警告書」を送付するなど、すでに対策の実例が出ている。

こうした社会の潮流を受け、実在の企業も次々と明確な基準を打ち出しています。 代表的な事例として、ANA(全日本空輸)とJAL(日本航空)は共同で「9つのカスハラ行為例(長時間の拘束、盗撮など)」を策定し、「悪質な場合は搭乗をお断りし、警察へ通報する」という基本方針を発表しました。

出典:「ANAグループとJALグループ 共同で『カスタマーハラスメントに対する方針』を策定」(全日本空輸株式会社 / 日本航空株式会社:2024年6月)
https://press.jal.co.jp/ja/release/202406/008157.html

業界のトップ企業が毅然とした態度を明文化したことで、現場の従業員が安心して声を上げられるようになり、社会からも大きな支持を集めています。

企業が準備すべきことは、独自の「対応マニュアル(ガイドライン)」の策定です。具体的には、「どのような行為を禁止とするか(定義)」「発生時の報告ルート(フロー)」「顧客への断り方(スクリプト)」の3点を文書化し、社内に周知する必要があります。 特に重要なのが、経営トップからのメッセージです。

「当社は従業員を守ります。悪質な要求には屈しません」という方針を社内外に宣言することで、現場のスタッフは安心して業務に取り組むことができます。

ガイドラインは一度作って終わりではなく、実際の事例をもとに定期的に見直し、ブラッシュアップしていく姿勢が求められます。

現場を守るための「中止・遮断」ルールと対策

現場判断で「お断り」するための具体的基準

いざカスハラが発生した時、現場スタッフが最も困るのは「いつ対応を打ち切っていいのか」という判断です。上司の許可を得ようとしても連絡がつかず、その間ずっと暴言を浴び続ける…という事態を防ぐために、現場判断で対応を中止・遮断できるルールを作りましょう。

例えば、「大声を出されたら『冷静にお話しください』と警告する」「警告しても収まらない場合は通話を切断する」「同じ要求を3回繰り返されたら『これ以上はお答えできません』と告げて終了する」「30分以上居座られたら退去を求める」といった数値基準(トリガー)を設定します。

「このラインを超えたら、お客様ではなく加害者として扱う」という基準を明確にすることで、スタッフの心理的負担を大きく減らすことができます。

警察・弁護士との連携フロー

カスハラの中には、殺害予告やストーカー行為、暴力行為など、直ちに警察に通報すべき緊急事態も含まれます。こうした悪質な事案が発生した際に、誰がいつ警察を呼ぶのか、どのタイミングで弁護士に相談するのかという「エスカレーションフロー」を明確にしておくことが不可欠です。

特に、現場では「警察を呼んでいいのだろうか」「大げさにして会社に迷惑がかからないか」と躊躇しがちです。「身の危険を感じたら迷わず110番してよい」というルールを徹底し、事後報告で構わないという安心感を与えることが重要です。

この条例の最大のメリットは、お客様に対して「東京都の条例に基づき、これ以上の対応はお断りします」と堂々と言えるようになったことです。これは現場にとって強力な武器です。

ただし、武器は持っているだけでは意味がありません。実際に使えるようにするための訓練(ロールプレイング)をしておかないと、いざという時に震えて声が出ません。日頃から「断る練習」をしておくことが、スタッフを守る最後の砦となります。

まとめ

本記事では、2025年4月施行の東京都カスタマーハラスメント防止条例について、その概要と企業の対応策を解説しました。

条例自体に罰則はありませんが、それは「法律で罰せられないから何もしなくていい」という意味ではありません。むしろ、条例は「従業員を守るための盾」であり、その盾を有効に使うための具体的な基準作りこそが、企業に課せられた法的・道義的義務なのです。

カスハラ対策は、決してお客様を切り捨てることではありません。理不尽な要求に対して毅然とした態度を示すことは、善良なお客様へのサービス品質を守り、何より大切な仲間である従業員の心と未来を守ることにつながります。

条例施行をきっかけに、「不当な要求には屈しない」という毅然とした組織文化を作り上げ、誰もが安心して働ける環境を整えていきましょう。

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FAQ・よくある質問

Q1

カスタマーハラスメント防止条例に罰則がない理由は?

A

この条例は「理念条例」として設計されており、罰則による強制より社会全体の規範形成を目的としているためです。ただし、罰則がないことは企業が何もしなくてよい理由にはなりません。東京都という広域自治体が「カスハラは許されない」と明言したことで、企業が顧客に対して条例を根拠に対応を拒否したり、警察・弁護士へ相談しやすくなったりする実質的な後ろ盾を得ています。

Q2

カスハラと正当なクレームの違いは?

A

「要求内容の妥当性」と「手段の相当性」の2軸で判断します。壊れた商品の交換要求は妥当ですが、土下座の強要は妥当性を欠きます。また、商品に不備があっても長時間怒鳴り続けたりSNSで誹謗中傷したりすれば、手段として相当ではないためハラスメントと認定されます。この2軸を組み合わせることで、正当なクレームと悪質な行為を明確に区別できます。

Q3

カスハラ対策で企業が現場に整備すべきルールとは?

A

「どの行為を禁止とするか」「発生時の報告ルート」「顧客への断り方のスクリプト」の3点を文書化することが基本です。加えて、現場が上司の許可を待たずに動けるよう、「警告しても収まらなければ通話を切断する」「30分以上居座られたら退去を求める」など数値基準を設けることが重要です。身の危険を感じた際に事後報告でよいと明示することも、スタッフの心理的負担を下げる実務上の鍵になります。

ヘルプドッグ編集部
筆者

ヘルプドッグ編集部

セルフサポートやカスタマーサポート運用に関する知見をもとに、現場で役立つ情報をわかりやすく発信しています。 実際の運用課題や改善事例を踏まえながら、自己解決率向上とサポート業務の効率化につながるヒントをお届けします。