無印良品が生んだ最強マニュアル「MUJIGRAM」を徹底解剖

無印良品には「MUJIGRAM」と呼ばれるマニュアルがあることをご存じでしょうか?このMUJIGRAMはマニュアルの中でも特に有名ですが、その理由は何でしょうか。

2020年のコロナ禍の影響を受けても、2021年には過去最高益を見込むなど、無印良品は継続的に成長を続けています。その無印良品の経営の根幹となっているのが、店舗マニュアルである「MUJIGRAM」と、本部業務マニュアル「業務基準書」です。

この記事では、MUJIGRAMについて詳しく探ります。

目次

MUJIGRAMが作られた背景

※画像はイメージです

無印良品を経営する株式会社良品計画は、西友のプライベートブランドから独立後に右肩上がりの成長を続けていましたが、2001年には38億円の大赤字を計上しています。しかし、そこからV字回復を遂げました。

このV字回復に貢献したのが、全13冊、合計約2,000ページにも及ぶ店舗マニュアル「MUJIGRAM」と、約6,000ページの本部業務をマニュアル化した「業務基準書」です。

まず、なぜ大赤字に転落したのかという疑問についてですが、MUJIGRAMの生みの親であり良品計画の前会長である松井忠三氏は、「経験主義が蔓延っていたことが原因」だと述べています。2001年の大赤字を計上した際に新社長として就任した松井氏は、経営陣の刷新、不良在庫の処理、不採算店の閉鎖・縮小、リストラなどを行いました。

そして、これまで「個人の経験や勘に頼っていた業務を仕組み化する」ために、前述した2つのマニュアルを作成しました。経験主義では、経験者がいなくなった後に再び一からスキルを構築しなければなりません。これを悪しき文化とし、根本的に解決するための仕組みとして、マニュアル作成が行われたのです。

これがMUJIGRAM作成の背景です。

MUJIGRAMのポイント

では、赤字企業をV字回復させたMUJIGRAMはどのような内容のマニュアルなのでしょうか。MUJIGRAMのポイントを押さえておきましょう。

① 新人でもわかる具体的な内容

MUJIGRAMは、新人が理解できるほど具体的に書かれています。例えば、「POP」などの簡単な単語でも解説ページが設けられています。また、解釈が分かれる言葉や表現についても徹底的に定義されています。

たとえば、「商品を整然と陳列する」という表現があったとしても、「整然」だけでは人によって方法が異なります。MUJIGRAMでは、「整然=フェイスUP(タグのついている面を正面に向ける)、商品の向き(カップなどの持ち手の向きを揃える)、ライン、間隔が揃っていること」などと具体的に定義しています(『無印良品は、仕組みが9割』松井忠三より)。

このように、言葉や表現を具体的に定義することで、誰でも同じ仕事を進められ、同じ判断ができるようにしています。

新人研修では必ずMUJIGRAMが使用され、13冊の1冊目「①売り場に立つ前に」から2冊目の「レジ業務・経理」…と順に覚えていき、スキルアップする仕組みになっています。実際に店舗に配属されても、隣の人を見れば最も良い動きができるようになっており、MUJIGRAMの内容を100%実行することができます。判断に迷ったことがあればMUJIGRAMを開けばわかります。このようにして「誰もが90点の仕事ができる」と言われるMUJIGRAMというマニュアルが運用されているのです。

② 明確な作業目的

MUJIGRAMは、作業の目的が明確に記載されています。手順を示す前に、その作業が「何のために必要なのか」ということが各ページの冒頭に必ず明記されています。作業の目的が明確になっていれば、単純に「作業」を行うのではなく、自発的に取り組むことができますし、理解度や熟練度も上がります。

また、改善点が見えてくる可能性もあります。例えば、これまで何となく続けてきた作業が「本当に必要な作業なのか?」「より良い方法があるのではないか?」など、マニュアルを見直すきっかけにもなります。

③ 常に更新される

MUJIGRAMは絶えず更新され続けています。松井氏は「マニュアルに完成はない。どんなに一生懸命作っても、できた時点から内容の陳腐化が始まる」としています。また、前述した著書で「どのような仕組みであっても10年は持たない」とも記しています。

つまり、リアルタイムで更新されていくことが重要なのです。実際に、問題点や改善策が発見されたらイントラネットの「顧客視点シート」と「改善提案」を通じて提案されます。顧客視点シートは重要な運用方法になりますので、後ほど詳細にご説明します。

④ その他

他にもMUJIGRAMには細かい決まりが設定されています。それもマニュアルを浸透させるための大切なポイントとなります。

例えば、マニュアルに記載する業務は全て同じフォーマットで揃えることになっています。無印良品ではMUJIGRAMだけでなく、業務基準書も異なる部署間で同じフォーマットや書き方で記載されています。フォーマットを統一することでクオリティが安定し、読みやすくなるため理解もしやすくなります。

また、あえて良い例・悪い例を挙げているのもポイントです。MUJIGRAMでは店舗デザイン等に関して写真付きで良い例・悪い例が紹介されています。悪い例も載せることで説明を具体化するためです。

作った後の運用方法が大事

前述した「顧客視点シート」について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。

「顧客視点シート」は、店舗スタッフが顧客から受けたリクエストやクレームを本部に伝えるためのものです。顧客視点シートには「改善提案」として、スタッフが自ら発見した商品や業務手順の改善点を提案する欄も設けられています。

これらの提案はエリアマネージャーが精査し、選別して本部に上げます。そして、本部のマニュアルを統括する「業務改革部」が提案を精査し、採用・不採用を検討します。採用された案は、本部の各部門や店舗にフィードバックされ、最終的にMUJIGRAMが更新されます。

更新は随時行われ、その都度、朝礼で従業員に伝えられ徹底されます。更新は毎月20ページに及び、年間では全体の約12%が改定されます。しかし、総ページ数は変わらないそうです。

また、更新された内容は3ヶ月に一度のペースで印刷され各店舗に配布されます。差し替えたページは必ず業務改革部に返送される仕組みになっており、差し替えが行われていない状態を防止しています(デジタル版は1ヶ月に一度更新されます)。

このようにして、常に新鮮なマニュアルが出来上がっています。なんと、多いときには年間2万件の顧客視点シートが提出されるそうで、無印良品の従業員の意識の高さもうかがえます。

マニュアルで成功した企業の共通点

MUJIGRAMに限らず、マニュアル作成で成功した企業には、以下のような共通点が見られます。

業務の質を安定させたい(標準化)

業務を標準化することで、どの社員が担当しても同じ結果が得られるようにします。これにより、業務の品質が安定し、顧客満足度の向上にもつながります。特に無印良品のような多店舗展開をしている企業にとって、店舗ごとのばらつきをなくすことは非常に重要です。

業務を効率化させたい(効率化)

効率化の目的は、無駄を省き、生産性を高めることです。マニュアルを作成することで、業務手順が明確になり、作業時間の短縮やエラーの減少が期待できます。これは特に、作業が複雑で多岐にわたる企業にとって大きな利点です。

業務を個人に依存させないようにしたい(見える化)

業務の見える化を進めることで、特定の社員に依存することなく、誰でも業務を遂行できるようにします。これにより、急な人員変更や退職による業務停滞を防ぐことができます。無印良品がV字回復を遂げた背景には、個人の経験に頼らない業務の仕組み化があったのです。


これらの共通点から見えてくるのは、マニュアルをただの教育ツールにするのではなく、「攻めるためのツール」にしたいという考えです。標準化・効率化・見える化を進めることで、人手不足の解消や新事業の立ち上げといった次の目標に進むための基盤が整います。実際に、マニュアル作成を通じて業務の質と効率を高めた企業は、新たなチャレンジを行う準備が整い、さらなる成長を遂げています。

例えば、無印良品のMUJIGRAMは、店舗運営のあらゆる側面を網羅した詳細なマニュアルです。このマニュアルが存在することで、スタッフは迷うことなく業務を遂行でき、常に高品質なサービスを提供することができます。その結果、顧客満足度が向上し、リピーターが増えるという好循環が生まれています。

マニュアルは静的なドキュメントではなく、企業の成長を支える動的なツールです。これを理解し、積極的に活用している企業が成功を収めているのです。

まとめ

MUJIGRAMは、一連の素晴らしい流れによって、常に「血が通った」と表現されるほど新鮮なマニュアルが運用されています。優秀なマニュアルであるMUJIGRAMをコピーしたいと考える企業もありますが、松井氏は「マニュアルは自社で作らなくては意味がありません。会社ごとに、それぞれの会社に合ったマニュアルの作り方があるはずです」と述べています。

マニュアルを作成しようと考えている企業は、MUJIGRAMの成功例を参考にしつつ、マニュアルがどのようなものであるべきか、どのような内容にするか、どう運用するかを考えることが重要です。自分の企業に合ったマニュアルを作成し、適切に運用していくことが成功の鍵となります。

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