その理由は、大きく2つあります。お客様の多くが「まず自分で調べて解決したい」と望んでいること、そして企業側が、同じ問い合わせの繰り返しから抜け出し、人手をかけるべき対応に集中したいことです。さらに近年は、チャットボットやAI検索を正しく働かせるための土台としても、FAQが重要になってきました。
ただ、お客様が求める手段と、企業が用意できている手段のあいだには、いまもはっきりとした差が残っています。
なぜ今、FAQサイトが必要とされているのか
お客様の多くは、困ったときにまず自分で調べて解決したいと考えています。ところが、その求めに十分応えられている企業は、まだ多くありません。この差こそが、FAQサイトの整備が急がれている背景です
コンタクトセンター向けのシステムを提供するナイスジャパンが2025年に発表した調査では、お客様が疑問を解決するためにもっとも多く使う方法は、WebサイトのQ&A(FAQ)の閲覧でした。
その割合は88.8%にのぼります。ところが、このFAQを実際に用意している企業は59.6%にとどまります。お客様の約9割が頼りにしている手段を、企業は6割ほどしか提供できていません。30ポイント近いこの差が、整備の追いついていない現状を表しています。(出典:ナイスジャパン「コンタクトセンターCX調査2025」2025年)
この差が生まれる背景には、お客様と企業、それぞれの事情があります。お客様の側では、電話やメールの返信を待つより先に、Webで自分で調べて解決したいと考える人が増えています。
一方で企業の側では、人手不足が進み、問い合わせ対応にかけられる時間が減っています。FAQサイトは、立場の異なるこの両方の事情に同時に応えられるからこそ、必要とされているのです。

出典:ナイス・ジャパン「日本のカスタマーエクスペリエンス(CX)に関する実態調査2025」をもとに作成
お客様の「自分で早く解決したい」に応える
FAQサイトは、知りたいことをその場で自分で確かめられるという安心を、お客様に届けます。電話やメールのように、答えが返ってくるのを待つ必要がないからです。
電話で問い合わせても、つながるまで待たされることがあります。また、メールで質問を送っても、返信が来るまで数時間から数日かかることは珍しくありません。お客様が知りたいのは、今この瞬間です。それなのに、答えが届くまでには時間がかかり、この待ち時間そのものが負担になってしまいます。

その点、FAQサイトでは、自分の知りたいことに近い質問を一覧から探し、それを選ぶだけで、その場で答えが表示されます。夜でも休日でも、営業時間を気にする必要なく、疑問が浮かんだそのときに、自分のペースで自ら調べて解決できます。
こうした「自分で解決したい」という姿勢は、調査の数字にも表れています。先ほどのナイスジャパンの調査では、お客様による過度な迷惑行為(カスタマーハラスメント)を防ぐ条例が施行されたことをきっかけに、54.5%の方が「できるだけネット(FAQ)を見て自分で解決しようとする」と答えました。
つまり、問い合わせ窓口に連絡するより前に、まずFAQを見て自分で解決したいと考えるお客様が、半数を超えているということです。
問い合わせ対応の負担を減らし、人手不足に備える
サポート部門では、同じような質問への対応が毎日のように繰り返されています。FAQサイトは、この繰り返しを減らし、対応の答え方を組織に残すことで、これからの人手不足にも備えられる仕組みです。
お客様から寄せられる質問の多くは、初めて受けるものではなく、似た内容のものです。「解約したい」「送料はいくらか」といった定番の質問に、担当者はそのつど同じ説明を返しています。一件ずつのやりとりは短くても、積み重なれば相当な時間になります。とくに少人数で対応している現場ほど、この繰り返しはそのまま重荷になります。
こうした定番の質問と答えをFAQサイトにまとめておけば、お客様は自分で解決でき、問い合わせそのものが減ります。担当者は、空いた時間を、個別の事情をくみ取る相談や込み入った対応に回せるようになります。
負担は、件数だけの問題ではありません。対応のしかたがベテランの経験に頼ったままだと、その担当者が異動や退職で抜けたとき、同じ品質で答えられる人がいなくなります。FAQサイトを整える過程では、こうした答え方が文章として書き出されて形に残り、新人が学ぶ教材にもなります。特定の人に頼る状態も、少しずつ解消されていきます。
こうした備えは、これから働き手の不足が深刻になるとされる「2030年問題」を見据えるうえでも欠かせません。先ほどのナイスジャパンの調査では、その対策として「FAQサイトやボットなどのセルフサービス(お客様が自分で解決する仕組み)の強化」を挙げた企業が47.5%にのぼりました。
人手が足りなくなる前に、お客様自身で解決できる仕組みを整えておきたい。そう考える企業が、半数近くにのぼっているということです。

検索やAIから見つけられる「資産」にもなる
FAQサイトの値打ちは、問い合わせ対応の負担を減らすことだけにとどまりません。質問に丁寧に答えたページは、検索エンジンやAIを通じて、これから取引が始まるかもしれない未来のお客様の目にも触れるようになります。
何かを買おうか迷っているとき、人は「この商品はどう使うのか」「解約の方法は何か」といった疑問を、検索で調べることがよくあります。FAQページは、こうした一つひとつの疑問に答える形でできています。だからこそ、お客様が検索した質問と内容が一致しやすく、検索結果で見つけてもらいやすくなります。
近年は、検索だけでなくAIから見つけてもらうことの大切さも増しています。ChatGPTやGemini(質問を入力すると文章で答えてくれる、対話型の生成AI)は、答えを作るときに、Web上のページを読み込んで参考にしています。
そのため、質問と答えがわかりやすく整理されたFAQページは、AIが回答を組み立てる際の参照元として選ばれやすくなります。AIがお客様に答える文章の中で、自社のサービスが引用される機会が生まれるということです。
このように、FAQページはお客様の疑問を解消します。それと同時に、商品やサービスを知ってもらい、信頼を深めてもらうきっかけにもなります。日々の対応のために作ったページが、未来のお客様との出会いを生む資産へと育っていきます。
ほかのサポート手段を生かす土台になる
FAQサイトは、ただ置いておくだけの仕組みではありません。お客様と文字でやりとりして自動で答えるチャットボットや、人が直接お答えする問い合わせ窓口と組み合わせることで、それぞれがもっとうまく働くようになります。こうした手段がきちんと働けるかどうかは、もとになる答えがそろっているかで決まるからです。

チャットボットやAIは、FAQがあってはじめて働く
自社サイトに置くチャットボットやAI検索(AIが質問に直接答えを返してくれる検索)は、あらかじめ用意しておいた答えを読み取って、お客様の質問に合わせて返す仕組みです。もとになる答えがそろっていなければ、正しく返すことはできません。
その答えの中心になるのが、FAQです。FAQが十分にそろっていないと、チャットボットやAIは参考にできる答えを持てず、お客様に正しくお返しできません。FAQが足りないままチャットボットだけを入れても、答えの正確さは上がらず、お客様が自分で解決できるようにはならないのです。
実際に、コールセンターの仕事で生成AIを使い始めた企業は23.6%にのぼり、前の年の17%から増えています。AIを使う会社が増えるほど、その答えのもとになるFAQの大切さも増していきます。
だからこそ、チャットボットやAI検索を取り入れたい会社ほど、土台となるFAQサイトを先にそろえておく必要があります。
自分で解決できる疑問と、人がお答えする相談を分けられる
お客様が問い合わせる先は、FAQだけではありません。電話やメール、お客様と文字でやりとりする有人チャットなど、人が直接お答えする問い合わせ窓口もあります。
FAQサイトは、お客様の疑問のうち、自分で解決できるものを引き受け、人が考えてお答えする必要がある相談を、人が直接応じる問い合わせ窓口に残します。こうして、入り口で疑問を振り分ける役目を果たします。
ここで大切なのは、FAQに役目を持たせすぎないことです。すべての疑問をFAQだけで解決させようとすると、ページの数が増えすぎて、かえってお客様が知りたい答えを探しにくくなります。
反対に、FAQの中身が少ないままだと、本来は自分で解決できたはずの疑問まで、人が直接応じる問い合わせ窓口に殺到し、サポート担当者の負担が膨らみます。FAQを「お客様が最初に確かめる場所」としてきちんとそろえておくと、かんたんな疑問はFAQで、ふくざつな相談は人で、と無理のない分担ができ、サポート全体がスムーズに回るようになります。
おわりに
人手不足は、もう避けられない時代になりました。AIをはじめとする技術が広がり、用意された情報をもとに、AIが人に代わって接客やサポートを担うことも、当たり前になりつつあります。お客様も、それを違和感なく受け入れ始めています。
ただ、サポートの本当の価値は、あらかじめ答えを用意できる決まった形の質問に答えることだけではありません。AIだけでは答えきれないイレギュラーな問い合わせや、お客様一人ひとりの事情に向き合って解決へ導くこと。
そして、そもそも問い合わせが起きない仕組みをつくること。企業やカスタマーサポート部門の役割は、そちらへ移りつつあると感じています。実際、弊社では、ヘルプドッグのようなAIカスタマーサポートシステムを活用し、問い合わせが週に2、3件しか発生しない状態をつくれています。
「AIなんて、うちには関係ない」「無人のサポートなんて、まだ早すぎる」。そうお考えの企業やカスタマーサポート部門の方にこそ、いち早く、人だけに頼らないサポートの仕組みづくりに踏み出していただきたいと思っています。その第一歩が、FAQや業務マニュアルなどのナレッジ情報をそろえることです。